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THE MAZE

"""サファラー（Sufferer）な話"""
Text by Reiko NAGASE SMITH
　
子供や女性が被害者となる凶悪な犯罪が増えていて、物騒さに環のかかったキングストン。ウーマン・アビュース、チャイルド・アビュース、セクシャル・ハラスメントなどに対処する、女性や子供を守るためのキャンペーンはますます強化されていき、犯罪撲滅のために、画期的な対策がとられている。クラブやダンスでの突然の手入れや強制終了、ポリスの副業全面禁止令。タクシー・ドライバーに課せられる規制は増え、街のヴェンダー取締りは厳しくなる一方。そんな中、一般市民であるはずのヤードマンがますますサファラー（苦しむ人）にされていく。正直言って、ジャマイカは女のほうが生きやすいんじゃないかな。How yuh think？
　
サファラーな話は続く。ジャマイカには、ケアされずに育って、まともな教育も受けられず、社会から置き去りにされてしまう男たちが多くいる。Look around。ストリートの片隅で、日がな一日たむろって過ごすコーナー・マン。その日暮らしの男たち。ヤードマンは、人に縛られることもなく、毎日をやりたいように生きているように見えるけど。彼らの問題は、彼らが言う様にモニー（money＝お金）がないこと。Is dat all true?
　
よそのゲットーに入るのも、アップタウンのゲート付きコミュニティに入るのも、止められるのはいつもヤードマン。まじで逮捕される可能性だって大いにあるわけで、外国人の私たちとは違う不自由さを味わっている、のかもしれない。“18歳未満お断り”の年齢制限のように、目に見えない、ヤードマンお断りの重い扉がおろされる。誰も、ヤードマン・アビュースって言わないのが不思議なくらいだ。Think about it。
　
ヤードマン・アビュースのはじまりは、女の子に比べてケアされない子供時代を送ることにあるのかもしれない。はっきりした理由はよくわからないけど、女の子に比べて男の子は、親や保護者の目が届かず、または放置され、子供のうちからストリート・ライフに近いライフ・スタイルを送るケースも多い。字の読み書きが不自由なのは、圧倒的に男性に多く、教育もおろそかになり、職にもつけない、の悪循環。大学進学率は女子の方が高く、社会的信用度も女性のほうが高い傾向にあるようにみえる。女手ひとつで育った彼らのまわりには、ロール・モデルとなる大人の男が非常に少ない。
　
今までにはなかった犯罪の形、子供の誘拐事件が多発し、保護者や学校は躍起になって子供の送り迎えを厳重に強化している。一方、公共の乗り物しか利用できない、インナー・シティや過疎村の子供たちとの格差は、さらに大きくなってくる。ますますジャマイカが、歩けない街になっていってしまう。Real sufferer。
　
救いとなる音楽は、彼らの価値観を狭くするときもある。現在進行中のマヴァドとカーテルのリリカル・ワー。カーテルの、対アライアンスのディス・チューン。音楽のなかでの争いは、スカの時代からジャマイカン・ミュージックのカルチャーの一部であったわけだけど、それが彼らを不自由にしてしまう。Wat dat fa？　リリカル・ワーではお互いをゲイとなじる。万が一、子供でもいないようなDJがいようものなら、バティマン扱い。子供の数で男ぶりを競ったりする、強さの勘違いがまかりとおってしまう。Suffering。そしてヤードマンは今日も、おふくろチューンを歌う。
　
ものすごく狭い世界に生きながら、危険で不安定な毎日をおくっているヤードマンに愛の手を。ジャマイカには、いい音楽とポジティヴ・ヴァイブスがある。Yes, we can。まずは、コンドームを使う意識から。One Love。
　
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