Riddim | MACHACO / PRECIOUS

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MACHACO
PRECIOUS
　
Text by Hajime Oishi / Photo by Nahoko
　

06年に自身のレーベルMelody Lifeを立ち上げ、同年にはSpragga Benzも参加したミニ『Truly』を発表したmachaco。約2年ぶりとなる新作『Precious』は、初のメジャー・アルバムにして日本人歌モノ・レゲエ作品の最高峰となるであろう超高品質な内容となった。
　
　日本初のワン・ウェイ・アルバムとされる92年作のコンピ『Hard Man Fi Dead』に参加していることからも分かるように（その他のメンバーはPapa Bon、Boy-Kenら）、machacoはシーン黎明期から活動するアーティストだ。そんな彼女が「自分が好きで聴いてきた音に近づけたかったんですよね」と話す初のメジャー・フル・アルバム『Precious』。前作のミニ・アルバム『Truly』同様、セルフ・プロデュースの下で制作されたこのアルバム、ちょっと驚きの出来である。全編が温もり溢れるミディアム・トラック。それも、ひとつひとつ丁寧に作り上げられたことが分かる良質なもので、そこからはレゲエに対するmachacoの強い愛情が伝わってくるよう。
　
　「今のレゲエが好きなんですよ。トーラス・ライリーだったりリッチー・スパイスだったりジェントルマンだったり……特にトーラス・ライリーのあのアルバム（『Parables』）はビックリしましたね。“こんなレゲエがあったらいいな”と思っていたことが全部集約されていたから。あと、今だったらエターナですね。過去の焼き直しだけじゃなくて、キチンとメロディがある。で、歌詞に説得力があって、踊れて、歌える」
　
　トーラスやエターナのアルバムについて説明した後半部分の発言は、そのまま『Precious』にも当てはまる。ディーン・フレイザーやロビー・リンといった名手たちが作り出すトラックは、古くて新しい今のミディアム・レゲエの音。そこに、力強さと優しさが同居したmachacoの歌がふわりと乗る。
　
　「私が考える女性のレゲエって、包容力があって、なおかつグルーヴ感があるものなんですよね。そういうものにフィットする歌詞を考えていった時、自然に“Love”が共通するテーマとして出てきたんです。“Love”といっても人類愛みたいな意味もあるだろうし、異性に対しての“Love”もあると思うんですけど」
　
『Precious』がそこいらのポップ・レゲエ作品と大きく違うのは、ひとつひとつの歌・ひとつひとつの声から濃厚なレゲエの香りがしてくる点にある。その在処を探っていくと、そこにはジャマイカに対するmachacoの強い思いがあるようだ。
　
　「ミディアムのレゲエがイイなと思ったきっかけが、現地のタクシーから流れてきたIRIE FMだったんですよね。景色とマッチしてる感じがあって、そこにグッときちゃったんです。もしかしたら、ジャマイカが好きだからレゲエが好きなのかもしれませんね。曲を作る時も、ジャマイカのダンスや海でかかってるイメージを持って作ってますね。」
　
　ジュニア・ケリーと共にバニー・ウェイラー作のファウンデーションに挑んだ「Dream Land」（マーシャ・グリフィスがハイノートに残したヴァージョンをイメージしたそうだが）、親子のような信頼関係で結ばれたマーシャ・グリフィスとの「Precious」、90年代にJAP jamに残した自身の代表曲をセルフ・リメイクした「Ghetto Boy」…全14曲、『Precious』にはいい曲しか入っていない。10年後、ファウンデーション・チューンと呼ばれていてもおかしくない風格が、これらの楽曲にはある。そんなアルバムとこの夏に出会えた事が、僕は嬉しくて仕方ないのだ。
　
　なお、彼女は最近プロデューサーとしても忙しくなってきた。ここしばらくではサンドラ・クロスやサディキ、Sing J-Royを手掛け、現在ティッパ・アイリーなど、欧州のアーティストからもオファーを受けているという。『Precious』でも聴くことのできたmachacoの丁寧で確かな仕事ぶりは、今後さまざまなアーティストの作品で発揮されることにもなりそうだ。