JING TENG
SWEET SOUND, GENTLE VOICE
Text by Hajime Oishi / Photo by Shiko Watanabe
Mighty Crown主宰のLife Style Recordsに所属し、ここ数年で急成長を遂げたJing Teng。3枚のシングルに続いてリリースされた彼のデビュー・アルバム『Sweet Sound』は、温もり溢れるサウンド・プロダクションと、レゲエ・シンガーとして希有な個性を持つJing Tengの歌声が鮮やかに調和した一枚となった。
なんというか、Jing Tengの歌には不思議なバランスがあるのだ。歌唱法としては、衒いがなくて真っすぐ。それもサンチェスを頂点とするダンスホール・シンガーのそれではなくて、ちょっとかつてのニューミュージック的にも思えたりする。それでいて、言葉運びは巧妙に韻を踏んでいて、正しくダンスホール的だ。その絶妙なバランスが中毒性のある魅力にも繋がっていて、1回耳にすると、次にはそのフレーズを口ずさんでしまう。僕の知るかぎり、Jing Tengのような日本人レゲエ・シンガーはこれまでにいなかったはずだし、多少大袈裟な表現をすれば、彼の歌唱法は“発明”と言ってもいいんじゃないだろうか。
ほとんどの読者にとって、彼の存在を意識したのはGuan Chaiとのコンビネーション・チューン「Up & Down」、もしくは「Sweet Sound」だったはず。Mighty Crownプロデュースの『Life Style Records Compilation Vol.2』に収録されたこの2曲は、それまで関西のローカル・シンガーだった彼の存在を一気に全国区のものにした。その後、Mighty Crownファミリーの一員となって、現場やダブ・プレートを通してさらに知名度を上昇させていた彼だったが、今回、デビュー・アルバム『Sweet Sound』をリリース。これが、凄くいい。良質のシンガー・アルバムにして、先述したような個性が漲っている。
まず触れておきたいのが、TC Movement(Sami-TとGuan Chaiによるプロダクション・チーム)を中心にしたトラック・メイカーたちの的確な仕事ぶり。基本は生楽器の音色を活かしたミディアム・トラックで、メロディアスでいいトラックが揃っている(Raw Technicazやi-Watchの手腕にも注目したい)。
Jing Tengが今作で描き出すのは、レゲエ・ミュージックが人々をひとつにするダンスのワン・シーンだったり(「Sweet Sound」「Dancing Place」「Sing a Song」)、友人への思いだったり(「Friends」)、未来への思いをポジティヴに綴ったものだったり(「Reggae Music Sensation」「Take It Easy」「Hobo」)と、いずれもごくありふれた日常の延長にあるもの。日々の機微を見つめ、繊細にリリックに盛り込んでいくあたりは、レゲエ・シンガーというよりも王道シンガー・ソングライター的とも言いたくなってくる。それでいて、歌の節々から伝わってくるダンスホールのムード。今作がポップ・レゲエと一線を引いているとすれば、それこそがポイントになっているのではないか。
デビュー・アルバムにして、2008年を代表するシンガー・アルバムのひとつをモノにしてしまったJing Teng。今後の彼の活動は、今作が基準になってくるわけだから、最初から随分高いハードルを設定してしまったものだ、などと意地悪な見方もしたくなってしまう。マイペースに、長く、良質の歌を届けてほしい……そんな思いを抱かせてくれるのが、この『Sweet Sound』なのだ。
"Sweet Sound"
Jing Teng
[EMI / TOCT-26530 ]