リディム・オフィシャル・ウェブサイト
THE MAZE

"Cause Gully God Seh So"
Text by Reiko NAGASE SMITH（協力：アイランドツアー）
　
クリーン・ガリ・キャンペーンに、Gully Godマヴァドを起用するなんて、ジャマイカの公共機関も気が利いてる。
　
一連のギャングスタ・リリックや、「Inna Di Car Back」などセックス・チューンで、「ダンスホールが社会に与える影響」の論議をかもし、その実生活とともにバッドなイメージがつきまとうジャマイカのナンバー・ワンDJ、マヴァドが、公共問題の解決策に起用される、という話。
　
6月1日から、ジャマイカはハリケーン・シーズンに突入する。ハリケーンによる被害が多いのは、ジャマイカの山間部や海に面した地方、キングストン市内では、土地が低く洪水になりやすい地区があげられる。
　
キングストン市内には、Gully＝ガリ（ジャマイカ人は「ゴリ」と発音しがち）とよばれる川や溝があちこちに通っていて、大概ガリの近辺はゲットー化している。ごみ収集車も頻繁にこない地区で、このガリに、洪水となると、水と共にむやみに捨てられた不要物があふれ、デング熱など事後災害も発生しやすい。
　
少しでも被害を少なくするために、緊急災害措置対応機関が、ハリケーンにそなえてガリを清掃し、清潔に保ちましょう、というキャンペーンで、これにマヴァドが参加する。I'm on the rock
　
ガリは、地図にない道となり、慢性化したキングストンの交通渋滞を避ける抜け道として、アップタウンの車さえ利用する。雨のあとなど水の多いときは、かなりリスクも高いし、流されたりの事故もおこる。周辺の治安や動向にも注意が必要。それでもガリは、通学路や通勤路として利用される。
　
また、ガリはなにより奥にはいれば住民にしかわからない地形で、迷い込んだら出て来れない特徴を利用して、敵との争いや、警察からの手を逃れるにも効果的だ。ポリス＆ティーフにいたちごっこ。True me born pon di gully.　ジミー・クリフ演じるアイヴァンが、映画『ハーダー・ゼイ・カム』で思わずガリに逃げ込むシーン、今もそのまま。
　
200年も前、英国軍と戦うのに、ブルーマウンテンの地形と山奥でサバイブするプリミティブな能力を利用し、マルーン（注；自由を勝ち取った黒人逃亡奴隷たち）が勝利を導いた実話を彷彿とさせる。Real。
　
キングストンのガリは、現代のマルーンのサバイバル道ともいえるかな。レッツ・Gully Creepa!
　
　
マイカル・ローズがBUSSした「Shoot Out」でもうたわれる、ジャマイカの、国家警察による暴力の問題に、政府が本格的に取り組む姿勢をみせている。防衛法務大臣に元警視総監のヴェテランが任命され、警察の銃もM16ライフルから威力の低いＭＰ5サブマシンガンに変わるという。ジャマイカ警察がもつＭ16のイメージを払拭し、国際的に問題になっているジャマイカの、警察による死亡事件への対策の一環らしい。
　
同時に、治安悪化はとどまるところ知らず、キングストンやスパニッシュ・タウン、クラレンドンやモンティゴ・ベイの一部を中心に、銃犯罪が頻発。いままでの、政党絡み、地区の権力争いとは性質の違う犯罪のようで、ポリティカル・ガリソン（政治色の強い地区）の均衡がくずれ、その影響が犯罪や治安に濃くあらわれていることの不安を感じる。
　
マヴァドのリリックと歌声がストリートに沁みる。
Mi tired a di, di damn frustration
フラストレーションたまってるよ
Tired a babylon and dem damn molestation
バビロンにはいつもジャマされて、やんなっちまう
Dem know mi occupation
やつらオレの仕事を知っててさ
Soh nuh lock off di soun
サウンド止めるなよって
And lock mi inna noh station
でもってオレをとじこめるなよ
Wi music affi wi nation
ミュージックはオレらのものだ
Ah it alone people use go tru dem tribulation
それだけが苦難にむかっていける術なんだ
Mi a talk wid di nation, mi noh want noh demonstration
オレらの仲間と話す術、デモなんかしたくないんだよ
We shall overcome
克服しなきゃ。打ち克たなきゃ。
　
ガンとかゲットーとか、ハングリとかキルとか報復とかは、同じジャマイカにいても、関係なく過ごしていても、マヴァドのリリックはどこかで沁みるものがある。冷蔵庫にたべものがあっても、ジャマイカ、サバイバルにはちがいないし。
　
　
★ricoのジャマイカArt Life → www.ricoart.com
★ricoのスケッチ・ダイアリ→ http://ricoart.exblog.jp