(U KNOW)What the deal is
今月は新旧のジャムを見るという複雑な経験をしたが、リアルなヒップホップは今、アメリカに存在するか?という疑問を持ってしまった。残念ながら、リアル・ヒップホップとされるコンサートの半数は白人のキッズで、どういう訳かアンチ・エミネムで、エミネムを否定する事によって、"正しい"ヒップホッパーであると思っている様でもあった。しかしながら、"常に進化を続ける"事が定義でもあったオリジナルのヒップホップからは、これらのコンサートでは感じられない。90年代の黄金時代を懐かしんでいるだけにしか見えない。かと言って、今のチャート・インしているアーティストの歌詞にヒップホップを感じる事は滅多にない。一体、どこにリアル・ヒップホップが存在しているのか? それとも?
これらの黄金時代に触れている著書もまだ健闘しているので、サポートをよろしく。
"イッツ・マイ・シング 20 Years Of Hip Hop"
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●今月のジャム
4/2、トライベッカはニッティング・ファクトリーで、ナズとのビーフも解消し、ニュー・アルバムを制作中のコーメガ、出所したばかりのビッグシュグのギグが行われた。飛び入りで、シュグのバックをプリモが務めたが、スクラッチ・ライヴに慣れないせいか、ショウが中断されること度々で、不完全燃焼と終わった。客演男、コーメガもソロの曲というより、客演曲をヴァースずつ披露するという変則的なショウだったが、最近のシーンや、時事に関するフリースタイルは圧巻だった。ショウ自体は、3月に亡くなったばかりのスクリューボールのKLに捧げられた。オーディエンスは、リアル・ヒップホップをフォローしていると自負している感じだったが、KLが誰か知らないというお粗末な結末も?
●今月のオールド・スクール
まるで、1979年か80年のハーレム・ワールドさながらのジャムが、ハーレムのケネディ・センターで3/22に行われた。出演はT・スキー・ヴァリー、スプーニーG、ザ・フォースM.D.sという、今のオーディエンスには何を言っているか分からないというメンバーだが、DJ陣も、ジェイC、レッドアラート、ミーン・ジーンなど滅茶苦茶渋いメンツ。こういったメンバーが活動を続けているのも嬉しいが、サポートしている高齢化が進むファンも、もの凄く熱い?
●今月の訃報
公私ともに馴染み深かった80年代のブレイキング・スター、フロスティ・フリーズことウェイン・フロストが、4/3の早朝亡くなった。
今年のはじめから、入院し、闘病生活をおくっていた彼だが、80年代初期にロック・ステディ・クルーのフロントとして、当時NYではリヴァイヴァルであったが、世界的にブレイキングを広めるのに一役かった。週刊紙、ヴィレッジ・ヴォイスの81年のブレイキングの特集で表紙を飾り、その後、映画『スタイル・ウォーズ』、『ワイルド・スタイル』にも出演、そのカリスマを全世界に知らしめた。独自のシグネチャー・ムーヴと呼ばれる、"スイサイド"(背中から手をつかず、まっすぐフロアに倒れる。日本では坂上次郎しか出来なかったと言われる)など、アクロバティックなダンス・ムーヴは、彼を知らない人でもそれを知っているだろう。彼のキャラクターから生まれたBボーイ独特の態度も今のダンサー達にも受け継がれている。それは、これらの映画や写真を見れば、一目瞭然であろう。
ロック・ステディとは90年代に決裂したが、70年代のオリジナル・ブレイキングを支持し続け、自らが継承者だと、時代やビジネスによって歪められた歴史を間違いだと指摘し続けて来た。44歳だった。
私事ですが、制作したヒップホップのドキュメンタリーでも、ブレイキングの歴史を語ってもらった。いつかそれが日の目を見る事を切実に望む?
●今月の誤報
3/17にLAタイムス紙に掲載された94年の2パックの暗殺計画にディディとノートリアスB.I.G.が関与していたという記事が、誤報だったと4月に入ってから発表された。元々、FBIのファイルや、謎の情報源から入手されたとされる書類などを証拠として書かれた記事だが、ジェームス・サバティーノという服役中の詐欺師が捏造したとされるFBIのファイルが有力な物証だったとタイムス側が主張している。これらのファイルは、タイプライターを使用して作成されていたが、FBIは30年前にタイプライターの使用を止めているとも発表、なんとも人騒がせな話だが、服役しているサバティーノの行動力はプロップスに値する?
沼田 充司
DJ/プロデューサー。 レーベル<ブダフェスト>主宰。 雑誌『ブラスト』でも執筆中。 ニューヨーク在住。 [Photo by Tiger]