Review by TAKASHI FUTATSUGI
1. Mr.Beats a.k.a. DJ Celory / Beats Legend II (Pony Canyon)
ご存知DJ Celoryが世界に誇るべき国産ヒップホップのキー・トラックをセレクト・ミッックスした好企画の第2弾。今回はエクスクルーシヴとなるオリジナル・メイドのニュー・トラックで、旬な面子がフリースタイルをキックしていたり(Part.IIまであり)、ヒップホップ・クリエイターが作った歌物曲が混じっていたりとより練られた内容に。ZeebraからKreva、"E"qualからSeeda、サ上とロ吉と、振り幅のあるセレクションで一枚のアルバムとしてどう聴かせるか日本語ラップもかける現場至上主義の彼だけに(お楽しみあれ)。2枚使いも増量デス。
2. Will.I.Am / Songs About Girls (Universal)
BEPの“ボス猿”ことウィルのソロ最新作。グループ以外でもプロデューサーとして引く手数多(50セントからセル・メンまで)の彼だけに、今作も6割強をセルフ・プロデュースしているのだが、そのサウンド・プロダクションがまず面白い。ハウスやバイレ・ファンキまでを取り込みダンス・ミュージックとしての機能性を追求しつつ、目を引くトピック、鮮やかなストーリー展開もしっかり用意され、“天才”らしい実に巧みな作り、となっている。ゲストはスヌープのみでファーギー仕事で人気爆発のポロウ・ダ・ドンが2曲手掛けてるのもミソかと。
3. Kanye West / Graduation (Universal)
カニエのソロ3部作最終章“卒業編”が到着。村上隆によるポップなジャケも驚きに値するが、中身の方はもっとブッとんでる? コモン新作ともまた一味違った、地に足着いた未来派志向はダフト・パンクねたの「Stronger」から、サウスの名代DJトゥーンプと組んだ「Can't Tell Me Nothing」、"PYT" ねたとT-ペインの起用が効いている「Good Life」、ノッツ作のトラックでリル・ウェインと絡む「Barry Bonds」、その他にもDJプレミアのスクラッチ、モス・デフ、ドゥウェレ、クリス・マーティンの客演等、ポイント多過ぎの鉄板作。主役は勿論、“ラップ”です。
4. 50 Cent / Curtis (Interscope)
現在最も手強い影響力を持つラッパー=50、3枚目の勝負作(カニエとの件は別として)。そのシンプル極まりないファースト・ネームのタイトルにも表れているように、このアルバムはカーティス・ジャクソンが50セントに成るまでのストーリー、とか(実際はそうでない曲もある)。ドレー、ティンバランド、エミネム、DJカリル、ジェイク・ワン、ファイアー・デプト、ドン・キャノンといった“あくまで音で選んだ”制作陣との相性は間違いない筈なのだが、肝心の主役が少し覇気に欠ける気も…。ただ、以前の様なイケイケ感を狙っていない曲は面白いし、熱心なファンならば聴いておくべきだろう。
5. Havoc / The Kush (Nature Sounds)
先の50の新作にもプロデューサーとして参加していたモブ・ディープの片割ハヴォックが初ソロ・アルバムをインディの“ネイチャー・サウンズ”よりドロップ。盟友プロディジーがアルケミストとガップリ4つに組んで2ndソロを作り上げた事への対抗心か(?)全て自前のトラップはすこぶるドープで、モブ・ディープがヒップホップの入口だった様なヘッズはひたすら首を振り続けるしかないというもの。「マーケティングに関係なく、やりたい事をやりきった」という作品だけに聴後感も不思議と爽やかだ。
6. Percee P / Perseverance (Lexington)
ミドル・スクール人気再熱の昨今、ある意味一番新作を待たれていたのがこの男なのでは(ジュラシック5との共演も懐かしい?)。04年に“ストーンズ・スロウ”とサインした彼が制作のパートナーに選んだのは同レーベルのある意味“顔”であるマッドリブ。1stアルバムに相応しく、D.I.T.C時代の仲間、ダイアモンド-Dから、ジュラシック5を脱けたらしいチャーリー・ツナ、エイソップ・ロックといったゲストも駆けつけ、ファンキー・ビーツにひたすら男臭い直球勝負のラップを展開。グッときますぜ!
7. DJ Deckstream / Deckstream Sound Tracks (Lexington)
m-flo等のトラック制作やリミックス・アルバム『90's Blues Remix』等でのシェアな仕事ぶりで人気の高いDeckstreamの初のリーダー作。ハイエロのペップ・ラヴや、ザイオン・I、タリブ・クウェリ、ドレッド・スコット&エイドリアナ・エヴァンス(夫婦)をそれぞれフィーチュアした4枚のシングルがバカ売れした後だけに、期待があかるのは無理ないところ。実際、本作には高度なチョップらグルーヴ引用が活きた、最近のヒップホップでは味わえない何か、がある。ルーペ・フィアスコ、Verbal参加曲他、“未発表新曲”もツボなコラボ続出!
8. Kreva / よろしくお願いします (Pony Canyon)
草野マサムネや久保田利伸との前代未聞のコラボ曲を連発した“キレ者”Krevaのソロ3作目。今回は、千晴とのプロデューサー・ユニット=ストレスFreeや熊井吾郎と組んだトラック(ロマンクルーのAli-Kickも)が含まれているが総じてハイグレード! サンプリングのセンスだけでなく、鳴り、それ以上に“良い曲感”に対する意識の高さは普通じゃない。それはラップのアプローチにも言えることで…。シングル曲が多いだけでなく、打ち出し感の強い言葉が立ってて、しかもメロディアスな楽曲がこれだけ並んでいると…。参りました。
9. Primal / A Sleeping Man (File / Libra)
新宿拡声器集団=MSCより漢に続いて“言葉の武闘派”Primalもソロで見参。Dev Large(「ブッダで休日」というナイス・ネーミング曲含む3曲)にI-DeA、Maki The Magic、T.Tanaka、Illicit Tsuboiといった“上手い”“クセのある”MCを好むプロデューサー達が集結している事でも話題の本作は、MSCの中でのPrimal云々と言うよりも、今まで見る事のなかった彼の様々な引き出しが全開になった様な、“やり切った感”のある1枚に。生バンド=Watashiとのセッションの格好良さにもヤラれる…。
10. 神 / メガトンパンチ (Kix)
キックス・エンターテインメントより剣桃太郎に続き 妄 パンチ代表=神も2ndソロを投下。前作『ザ・パンチ』を上回る衝撃を意味するタイトル通り、言葉がハードヒットする神らしいアツさとユーモアのある力作となっている。昭和の男気復興を叫ぶ姿は、志を同じくする剣との“パンチ・パーマ・アンセム”から、IYAをfeat.した祭モノにもストレートに現れているが、社会派トピックも全体の流れの中で山椒の如くピリリと効いている。制作はZoro、Lucha、Lil'Ogi、Fly-Tが担当。
11. V.A. / A+ Front Line Of Tokyko Hiphop (Legendary)
妄 のDenが“聖地”Vuenosで始め、1周年を迎える“最前線日本語ラップ・イヴェント”=A+のサウンド・トラックとなるオリジナル・コンピが完成。妄から、Scars、D.Office、Ice Dynasty、Simon、Mikris、JBM、タイプライター、The Ghost他、関東シーンのフロントラインを張るアーティストが「誰よりも熱く」と意識しながらスピットする様はしっかりと刻み込まれていて、“ライヴに参加したくなる”こと必至、である。因みにAshraのリリースで幕を開けたこの565とDenの新レーベル“レジェンダリー”からは、次に爆弾コンビのユニットでは初のアルバムも控えているという。
12. S.C. Crew / Step In The Area (Seed)
東京アンダーグラウンド・シーンの核弾頭=大〈オロチ〉蛇、TG、EST16の4マイクと、DJ CGE、DJ Duck、DJ High-DからなるS.C. Crewが正式な(?)1stアルバムをリリース。全てのトラックを制作するHigh-D(リミックス含め良い仕事多し!)によるスクラッチも活きた構成もさることながら、1曲毎に違ったフォーメーションで現れるMC陣の声のキャラ立ちや絡み上手具合もかなりのもので、“現場叩き上げ”という看板に恥じない骨のある内容となっている。サーフDVDのサントラだった前作『Realistic』(完売)よりもコンピ色の薄い、クルーの底力を感じる作品、という印象。