「いつか野音でジャパニーズ・レゲエのイヴェントを!」。90年代、ずっとそんな強い想いを抱き続けて来たOVERHEATが2000年にスタートした『SOUL REBEL』。10月14日、東京のど真ん中=日比谷野外大音楽堂、今年で8回目を数えるこの野外ビッグ・ダンスを完全レポート。
今10月14日、午後7時。夕闇に包まれた日比谷野外音楽堂の客席が光の海に変わった。MCを務めるDJ Banaが、『Soul Rebel 2007』のオーディエンスに、一斉にライターの点火を求めたからだ。レゲエのライヴ会場では見慣れた光景だが、野音を埋め尽くすその光は、密度が高い分、いつになく美しく、幻想的だった。これからPushimをステージに迎え入れる光だ。Banaの呼び声と共に、「I Pray」による登場のイントロを、Home Grownが紡ぎ出す。やはり、野音で見るPushimは格別だ。
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熱かったが、夏はやはり、あっという間に過ぎた。そしてレゲエと共に駆け巡った様々な場面が、新たな記憶として残った。その名残を惜しみ、また翌年へと繋がる時間を共有するために、観客は秋の初めに日比谷野音に集う。イベントの規模は、最早、この段階ではあまり関係ない。ほどよく会場を包むサウンドの優れた音質、音量、音圧。コンパクトでテンポのいいショウの内容。ひと夏の間に熟練された完成度の高いパフォーマンス。それらと濃密な3千人が作り出す一体感。「有終の美」という言葉が『Soul Rebel』にはよく似合う。
曇り空の下、Racy Bulletのプレイから『Soul Rebel 2007』はスタートした。続々と席を埋めて行く観客。その楽しげな笑顔が生むグッド・ヴァイブスが連鎖していく。午後3時。Home Gの登場と、Rickie-Gのソウルフルな歌声と共にショウ・タイム開始。歌うことそのものが喜び、といった彼のステージングは暖かい。Ent Deal Leagueの3人も、今年の夏は大活躍だった。新しい波として、列島縦断チームに加わった感がある。充分に余裕と貫禄を見せていた。
DJ Banaをはさんで、ショウの第二部。Rankin節がバビロンの街に響く。その声は、日比谷公園で実施されていた「鉄道フェスティバル」に来ていた鉄男、鉄子にも届いたことだろう。続くMighty Jam Rockの登場で、会場は一気にヒート・アップ。怒濤のステージを繰り広げ、アウトロに乗って去っていくところは流石の演出。見応え充分だった。そして早くもSkywalker登場。このテンポの良さが、『Soul Rebel』の魅力のひとつだ。全曲最新アルバムからの曲だったが、観客がそれを充分、分かっている。力強い「Solid Ground」の真摯なメッセージが印象深く残った。
秋の日没の早さが、夏の終了を改めて実感させる6時過ぎ。『Soul Rebel』ではお馴染みのSunsetのサウンド・タイムで盛り上がって、ショウはいよいよクライマックス。アレンジを変えた「栽培したい」を歌いながらMoomin登場。リラックスした空気が流れる中、名曲「いつもそばで」へと続く。単独ライヴを控えているだけに、調子は上々。気持ちのいいステージだった。続いてH-Manの独壇場が展開される。「オールド・ベテラン」ではJr.Deeも登場し、「Hey Yo!」の流れからメドレー的に「レゲエ馬鹿道場」「飛んでけ跳ねとけ」に移行する10分にも渡るパートは圧巻だった。観客もやるだけのことをやった達成感を胸に、あとは彼女の登場を待ちわびる。Banaは求める。「ライターを着けて見せてくれよ」。照明を落とした日比谷野外音楽堂が、光の海に変わった。
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「ビルの谷間に集まるアニマル」。Pushimの「Survival Future」の中で歌われる一節が実現していた。彼女が名曲「往来」を全身全霊で歌い切り、会場全体が感動に包まれている中、恒例のオール・スター・キャストでエンディングと誰も思っていたその時、本当にサプライズなゲスト、Wayne Smithが現れたのだ。他の誰かではなく、Wayne Smithという存在の価値。レゲエ史上、“スレンテン”がもたらした劇的な変化のインパクト。それをこの場に運んだことの意味。それらを胸に刻んでステージを見つめる。Home Gが躍動する。「Under Mi Sleng Teng」の歌い出しと共に会場は大Mash Up。そして囚われない魂を持った強者どもが再びステージに集結し、どハードコアなマイク・リレーが展開されていった。レゲエを変えたマリファナ讃歌を、オール・キャストで高らかに歌い上げる。フィナーレは、そんな高いエネルギーを保持したままの状態。そして『Soul Rebel 2007』は終結したのだった。
その日、Rankin Taxiは言った。「オレたちはバビロンに住んでいる。だからバビロンでの生き方を考えろ」。その通りだと思う。オレたちは、選択の余地なく、生まれながらバビロンにいるのだ。ならばそこで捕囚にならない唯一の方法。それは、誰にも侵すことの出来ない魂を保持すること。レゲエはそれの指針とすることの出来る音楽のひとつなのだと思う。
Text by Naohiro Moro from Riddim 296