EC:ジャマイカ人ってさ、革新的ではあるんだよね、音の方法論に関しては保守的じゃなね。良ければ「これ、行っちゃおう」みたいな。
Simon:やっぱ、根本的に違うっていうかね。例えばミックス・ダウンするにも凄い音を上げまくるし、マスタリングも日本人的に考えるのと全然違う。とにかく限界まで上げて、そこから調整していく。日本人のやり方は下げ気味からだし、ちょっとでもリミット越えるとすぐ下げる。でも向こうはバンバン赤とか行ってるのに(笑)。
EC:スタジオのスピーカーって本当に飛んでるもんね(笑)。
Simon:「何回飛ばしてるんだ?」って(笑)。とにかく音の感覚が頼り。赤まで行ってるのに「実際は行ってないから大丈夫だ」って(笑)。そのギリギリで、時々ちょっと行っちゃってる事もあるんだけど、そこの感覚がいいなって。そこはレゲエやる以上は見習わなきゃって毎回思う。
EC:レゲエは小さいラジカセで聴くんじゃないって事があると思うんだよ。サウンドシステムで爆音でかける事を想定してスタジオでも爆音でミックスするって事なんじゃないかと思ってるんだ。最初の頃はオレも「こいつ、イカれてるんじゃねえか?」と思ったけど(笑)。
Simon:確かに。やっぱデカい音でかけた時のその感覚って凄くあるかな。日本だとデカいスピーカーのあるスタジオ行っても、そういう風にはかけてくれないし。
EC:スピーカーの持ってる能力の何十%とかそういう…。
Simon:意味ないじゃんっていう、そこは、ジャマイカ人は凄いなって。小さい音で聴いてる時とデカい音で聴いてる時のそのギャップっていうか、「あれ? これこんな良かったっけ?」みたいな、そこは大事なポイント。
EC:そうだね。レゲエはデカい音で空間が埋まってくるね。
Simon:でも、日本のサウンドは、そういうとこを忠実に守ってるなって思う。オレ、年に2〜3回はヨーロッパにツアー行ってるけど、やっぱ良い音が少なくて。ジャマイカやイギリスだとサウンド・システムをクラブに持ち込む文化があるけど、他のエリアはそんなでもない。日本の方が忠実に守ってるし、ちゃんとしている。名も知らないサウンドでもシステムを持ってるくらいの勢いだし、凄い良い音でやるっていうその感覚はヨーロッパ人より日本人の方がちゃんとしてるかな。
EC:日本人はマニアックだしね。
Simon:かなりマニアっていうかね。でも、ヨーロッパもレコードに関しては凄い。レコードが未だに売れるのはヨーロッパと日本だけだし。アメリカなんか全然売れない。レコード以外で日本と言えば、サウンド・システムも有名だし、ダンサーも有名。「ダンスホール・クイーン・コンテスト」で優勝したしね。この3つの文化が凄く有名。でも、そこまでやってる国というか、黒人以外でそこまでやっているのはいないと思う。
* * *
Simon:それにしてもオレら15年で、オーバーヒートが25年で、ちょうどキリのいいとこで(笑)。
EC:25年の実感はないけどね(笑)。
Simon:オレら、10年後とか全く想像つかない。正直、何やってるのかなあ? 勿論レゲエはやってるんだろうけど、どんな形でやってるのかなあ?
EC:でも、毎年、ちゃんと目標を打ち上げるじゃない。
Simon:確かに今年はスピーカーを増やそうとか、ダブ・プレート録ろうとか、デカい所でやろうとか何かやった方が周り全体のモチベーションが湧くし。
EC:正しいよ。
Simon:正しいのかな、楽しいっていうか。気付いたら日本のレゲエ・シーンも10年前と比べたら凄くデカくなっちゃって(笑)。PushimもMoominもFire BもBon君(Papa-B)も、ある程度というか凄く浸透してるし、レゲエの枠の外までちょっとずつ浸透し始めてる。10年前じゃ全く想像出来なかった。
EC:日本のレゲエがもっとステップ・アップするためには何が必要だと思う?
Simon:まあオレの勝手な希望というか、「こうなったらもっと面白くなるな」っていうのは、日本全国にサウンド・システムのセレクターとかサウンドがいて、その子達が現場でかけるレゲエとチャートに入ってるレゲエの曲が一致したら良いなと。例えばオリコン・チャートのトップ10にレゲエの曲が入りました。で、トップ10に入ると必ず現場でもかかるぐらいの感じっていうのかな。でも正直、それがまだないんだよね。凄く売れる連中の曲は現場ではかからないっていうのが現状で、そこを一致してもらいたい。売れるためだけの音楽を作るんじゃなくてね。例えば向こうだとSean Paulが「Gimme The Light」でブレイクした時は、ダンスでも皆、絶対に「Gimme The Light」をかけてた。そのレベルに行ってもらったらもっと面白くなる。現場でもウケるし、皆に認められたものがそのまま素直にチャートインしてもらえれば嬉しい。そうなればもっとシーンが活性化すると思うしね。
EC:それは、最高だね。
Simon:それをすぐ出来るかっていうと、またそれも中々難しいと思うんだけどね。まあ次の世代のためにも、そのベースを作ってあげられれば。
* * *
EC:じゃあ、2007年の目標立ててって言われたら、どうよ?
Simon:まず「横浜レゲエ祭」は、2006年がオレらの15周年って事で横浜スタジアムでやるっていうスペシャル感。だけどあれを味わっちゃうと、2007年ももう一回やりたいなっていうのが出てきちゃって(笑)。でも色んなハードルが出てくる。どうしてもまだレゲエ自体の認知度が低いから、やっぱまだ何だこいつら的な、ちょっと不良的な、若い奴らが集まって何か問題起こしそうとかのイメージがあるけど、決してそういうもんじゃないよと。オレら横浜でやってるからまずは地元から、街全体でレゲエの祭り感を出して行こう、っていうのが2007年の目標かな。スタジアムで起こる事だけじゃなくて、街全体だったり、市だったり。そこに教育問題も絡めてだったりしていこうよ、っていうのがスタンスっていうか。
EC:それは素晴らしいね。
Simon:レゲエはメッセージだから。教育問題もメッセージっていうか、何かそういうので繋がれるとこがあるし。「レゲエ祭」以外だと海外のリンクをもっと強めていきたいですね。今の若いお客さん達、特に1年目とか2年目の子達は、海外のレゲエよりジャパニーズ・レゲエで入った子達も凄く多いと思うんですよ。「ジャパニーズ・レゲエしか聴かない」とか、それはそれでいいのかもしれないけど、ルーツを忘れちゃいけないっていうか…。
EC:そうだよね。
Simon:イヴェントをするにも色々分けたい。例えば「Back To Hardcore」ってイヴェントで、70's、80's、90'sの曲しかかけない事を重視したダンスをやったりとかね。もっとレゲエの根本的な事を分かってもらって、更にジャパニーズ・レゲエも分かってもらいたいっていうのが凄くあるから。最近特にジャパニーズ・レゲエが凄くあがってきた分、逆に「ジャパニーズ・レゲエは聴きたくない」「ジャマイカのレゲエしか聴きたくない」って人達もいるし、そこのバランスを上手く取りたい。勿論、ジャマイカン・レゲエあってのジャパニーズ・レゲエなんだけどね。そのためには海外と日本のアーティストとのコラボ曲とかアルバムとか出していきたい、そんな2007年。
EC:そういうコラボって意味では、オレはわざわざ考えた訳じゃなかったけど、昔、Mute BeatとRoland AlphonsoとかMute BeatとGladdyとか『DUB WISE』っていうリミックスとか色々とやってたよね。だから、それは絶対必要だと思う。最初はアーティスト同士も抵抗があったりするんだけどさ。でも、やって5年とか10年経ったら「あれは凄かった」って言ってくれたりしてね(笑)。やる時は凄く大変だったり、ぎくしゃくしちゃったりする事もあるかもしれないし、多少乱暴なんだけど、冒険的な事は実際にそれをやると何かは起こるよ。
Simon:結果が絶対生まれる。
EC:じゃあ是非、やって下さい(笑)。
* * *
EC:最後に何かあれば。
Simon:じゃあ、2007年のオーバーヒートの目標を(笑)。
EC:オレは目標とかダメなんだよ(笑)、Simonみたいなカリスマ性ないしさ。
Simon:そこはもう石井さんで。例えば「オレはスケボーで○○する!」とか、そういう感じでも(笑)。
EC:何だよ、それ(笑)。だから、あと1年で『Riddim』も300号になるから何かイヴェントするか。あとまあ、本当はオレも現場は一番好きだったはずだけどさ、遠ざかってるから顔でも出さなきゃ。
Simon:石井さん、オレらの現場遊び来てよ。1ヶ月に1回、いや2ヶ月に1回でもいいから現場に来てもらえたら。
EC:反省してんだよね。夜寝るのももったいなくて遊んでたくせにさ(笑)。
Simon:じゃあ300号記念イヴェントは、記念って事で出演しますから! [取材協力/四五六菜館]
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