「デタミでPrince Busterとやったじゃないですか? Skaも10年くらいやったけど、それとはまた違うことが色々分かったし、『ああ、こうやってやったらええんねや』とか、『もっとこうやってやりたいな』っていう欲が出てきて。それからモチベーションはずっと上がってきてるんです」
世界最高峰のSkaバンドと各方面から賞賛されたDeterminationsでプレイしている時も、Icchieは常に“新しい何か”を探し求めてきた。Soul Fire、1番☆狂といった大阪レゲエ界の濃ゆいメンツが集まった無国籍ダブ・バンド=Bush Of Ghostsでの活動も、湧き上がるイマジネーションを具現化するための1つの形だったのかも知れない。
2004年の両バンド解散以降も、リミックス・ワークやYossy(ex-Determinationsの鍵盤奏者)のソロ・プロジェクト参加などで異彩を放ってきた彼が、よりダイレクトに自身を表現するソロ・プロジェクトを始動した。しかも、トランペットという生楽器のイメージの強い彼が選んだのは、意外にも打ち込みトラックにホーンやパーカッションなどを重ねていくスタイルのレゲエ/ダブ・サウンドで……。
「それまで打ち込みは、機材は好きで買うんですけど、MPCとか買っては売ってみたいなことを繰り返してなかなか手に付かない感じやったんけど、Yossyのソロをやるってなって初めてニーズがあって、『ほんなら、もう1回やってみよか』ってやってみるとハマって楽しくなったんですよ。で、『これ、結構打ち込みいけるな』『ほんなら自分のヤツもやってみるか』って。ちょうどその頃『エイドリアン・シャーウッドが大阪に来るから、何かライヴをしてくれ』って言われて『これや!』と思って、そこに照準を合わせて」
今作は打ち込みというスタイル以外にも大きな特徴がある。不動のトランペッターというイメージの強かった彼が、その楽器をトロンボーンに持ちかえているのだ。
「俺にとっては、トロンボーンは楽しめるんですよ。トランペットは野球で言ったらピッチャー。もう、1回登板したら中4日、5日あけるくらい気合がいる楽器やと思うんですよ。ストライクがバシッと入るというか、打たれない球を入れれるというか、凄い日々の鍛錬やけど、一生懸命やってバシッとやって当り前みたいな職業やから、プレイヤーに専念せんとあかんなと思ってて」
そんな風にプレイヤーとしてだけでなく、コンポーザーとしての視点で向き合った本作は、奇声や重厚なホーンの音色が幾重にも重なり合い、鬱蒼とした密林をまさに想起させる「In A Jungle」や、Skatalitesのトロンボーン奏者=Don Drummondによる名曲「Don Cosmic」を、彼ならではの解釈でより浮遊感ある月面旅行に仕立てていたりと実に多彩な全8曲で、Yossyのたおやかな鍵盤や秋広真一郎(Dreamlets)のエッジの効いたギターといったゲスト陣によるスパイスも絶妙。
しかし、この空間構築力や想像力のメーターが振り切った感覚といったら……。彼の頭の中ではどんな旅が繰り広げられているのだろう?
「妄想の旅ですわ。自分の頭の中で、どこまで行けるかっていう世界になってくるんですよ。精神力が問われるというか、どんだけリラックスして自分のことを楽しめるかという勝負になってくるから。……一応、世界中色々行ってたんですけど、勝手な妄想の世界なんでどこの国っていうんじゃないんですよ。断片的に夢みたいにいろんなものが出てきて、バンドのイメージの時もあるし、架空のクラブみたいなものだったり、野外のステージだったりとか。もっと抽象的な色の感じやったりとか……。ある意味人体実験ていうか、脳の中がどうなってるのかなって(笑)」
極限まで研ぎ澄ました感覚で、あらゆるしがらみを取っ払って“自分らしさ”のみをストイックに追及する。逆に、聴き手がどう受け取るか不安ではないのだろうか?
「Lee Perryも結構、変態扱いみたいなところがあるじゃないですか? 好きなことやって、勝手に妄想を広げて、自分の心地ええところを探して毎日ああだこうだやってる。相手にされるかどうかとかあんまり気にしてないなっていうのがよう分かるんですよ。レゲエに限らず世界中でそういう音を発表してるヤツがいるじゃないですか? 『ほんならこれやっぱりやるべきやな』って」
いつだって、こういう感性の持ち主が新たなドアを開けてくれる。この作品は、あなたの知らない新たなレゲエの形を見せてくれるのだ。
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