Pushimほどのアーティストになると、出す作品すべてに前作以上のクオリティが求められるだろうし、常にフレッシュでいることの難しさも日々感じていることだろう。だが、しかし??2年振り5作目となるニュー・アルバム『Sing A Song...Lighter!』からはそんなプレッシャーなど微塵も感じられないし、そこにはただただ音楽を楽しみ、自分の歌声でこちらを勇気付けようとする彼女がいるだけである。なんというか、物凄く純粋で、物凄く澄んだ作品なのだ。彼女自身、「色んな曲を歌いたいという欲はあるけれど、力んだ部分での欲というか、あんなこともこんなことも私にはできる!ってアピールするだけの欲は今はないですね」と語っていたが、まさにその言葉を体現したかのような作品となっており、更には“最新作にして最高傑作”という周囲の勝手な期待にも完璧なまでに応えた1枚となっている。これほどまでに説得力のあるアルバムにはそうお目にかかれるものではない。
コンセプトは「生音と歌モノ中心のスタンダード・レゲエ・アルバム」。早い段階からこのコンセプトを打ち出し、それに沿ってじっくり制作に取り組んだことが本作を傑作たらしめた要因でもあるだろう。実際「今回は歌詞が書けないとかが全くなく、今までで1番落ち着いて制作が出来た」そうだ。
「レゲエを始めた頃はラバダブ・スタイルで歌ってたんですけど、歌モノをどんどん作るようになって、コード感がある曲も増えてきて。ここ何年かはHome Grownと一緒にショウをしてるんですけど、バンドとやるのも凄い楽しいんですよね。ジャマイカでもリッチー・スパイスとかチャック・フェンダーとかラスタ系のアーティストが増えてきたり、生音がここ1、2年くらいで復活してきたんで、タイミング的にも“生音と歌モノ中心”というコンセプトはちょうどいいかなと思ったんです。毎回制作の最後の方では『時間がなくてもう出来へんかも!』って思うんですけど(笑)、今回はしっかりとしたコンセプトがあったからか、そういう気持ちは全くなかったし、ゆとりを持って制作に臨めましたね」
一人だけに向けて愛を歌うラヴァーズ・ロック「Anything For You」、ストリングス鳴り響くイントロから一気に惹き込まれる「I pray」などシングル諸曲をはじめ、ギターをバックにシンプルに、しかしこれ以上ないほどに奥行き深く歌う「Here I am」、インパクトのあるタイトルとジャマイカン・ミュージシャン達による緩やかなサウンドとのギャップにもビックリさせられる、最高に素敵なラヴ・ソング「木偶坊(でくのぼう)」など、コンセプト通り美しい“歌モノ”ナンバーが多く揃っているが、それだけで満足するPushimではない。Dry & Heavyを招いたダブ・ナンバー「スーパースター誕生」や、「私のレゲエ的使命感が達成できた曲」と語る勇ましいダンスホール・チューン「Da Bulldog」など、収録曲は実に多彩であり、まるでこのコンセプトの中で出来るあらゆることにチャレンジしているかのようである。
「歌モノとしてSunset The PlatinumやMighty Jam Rockに現場でプレイしてもらえる楽曲も収録したかったんです」と、彼らが手掛けた楽曲(Sunsetはナイヤビンギ調の「往来〜sunrise riddim〜」を、MJRは故郷・大阪について歌った雄大なナンバー「hometown」をそれぞれプロデュース)を入れているあたりも、さすがは“Queen Of Japanese Reggae”といったところだ。更にはルチアーノとのデュエット「As One」まで収録されているのだから、とことん贅沢なアルバムである。
「ルチアーノが『日本のいい所と、ジャマイカのいい所を歌い合うような曲をPushimと作りたい』と言ってくれて。Home Grownがトラックを作って、私がメロディをつけて、ジャマイカでルチアーノと一緒に歌を入れて、スティーヴン・スタンレーがミックスして。ジャマイカと日本、どっちも素敵な国だねっていう曲なので、ちょうど半分ずつジャマイカと日本で作業をした曲になってます。彼もこの曲をえらい気に入ってくれて嬉しかったですね」
豪華ゲスト陣も参加した厚みのあるアルバムに仕上がったが、しかし過度に飾ったり詰め込んだりしたわけでは決してないし、Pushimの発する一言一言に重みがあるからこそ、ずっしりとした厚みを感じるのである。「聴いてくれる人がいいアルバムだなって思ってくれればいいな、(求めるのは)それだけなんですよね」と彼女は語るが、この厚みを感じた人はみな感動を覚えるだろうし、彼女の数少ない要求に応えるのはそう難しいことではないだろう。Pushim??出会えたことを心から誇りに思うシンガーである。
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