世界を相手にダンスホール・レゲエで勝負し続けているビーニ・マンがここ数年、ジャマイカ国民に向けて制作してきた音源をまとめたアルバム『Concept Of Life』をリリース。プロデュースやアレンジはビーニ・マンが隅々まで関与し、ミュージシャンも全てジャマイカンで制作したローカル作品だからこそ、より濃度の高いアルバムとなったようだ。

“ヴァージン”からのニュー・アルバムが待たれる中(春頃のリリース予定)、何とあの“シャチのマーク”でお馴染みの地場産銘柄“フリーウィリー”より18曲入り(内7曲が未発表)のアルバム『Concept Of Life』が日本先行で登場。“フリーウィリー”と言えば、"Prodo" リディムのシャバ・ランクス「Move Pon More」('01)で注目を集めた新興レーベルという印象が強いのでは?(かく言う筆者もその一人なのだが)。同レーベルが誕生したその年には、ビーニ自身もまた忘れ難い一曲を吹き込んでいる。それは、バウンティ・キラー「Mystery Is The Man」(オケは "Rice & Peas")へのアンサー・ソングとなった「Always Be The Man」のことなのだが、同曲でビーニは宿敵バウンティに対して「5年でグラミーを獲ってみろ!と言ったが、俺がグラミーを獲った今、お前は考えを改める必要があるな」(長州力風に言えば「吐いたツバを飲み込むなよ!」)、「お前は自分のことを“ウォーロード”(戦の神)なんて呼んでいるが、いったい何の神なんだ? 何の戦なんだ?」などと冷静にやり返した上に“不思議に思ってる”彼のフロウをパクリ「俺は永遠の男になってやる!」とダメ押ししていたのだった…。

 「このアイデアは俺自身のものだよ。それをアーサー・ウェルズがあの形に仕上げてくれたんだ」
 そのアーサー・ウェルズなる人物の名を耳にして「もしや?」と思った方は相当な情報通だとお見受けする。そう、あのジョージー・ウェルズに憧れ、アーサー・ウェルズ(Walesは“大佐”の意)を名乗っていたその男(Dee Jay)こそが、“フリーウィリー”のオーナー・プロデューサーのニール・エイモスなのだ。自身のDee Jayとしての将来に早々と見切りをつけた彼は裏方に転向し“フリーウィリー”を立ち上げ、先のシャバからビーニ、シズラ、ウェイン・ワンダー、ウェイン・マーシャル、エレファント・マン、ブジュ・バントン、レディ・ソウ、レクサス、ヴァイブス・カーテル等々のレコーディングに関わり、アーティストやファンの信頼を得てきた。中でも最も“近い”存在だったのが言わずもがな、この“全知全能の男”ビーニ・マンだったのだ。

 「一番のビッグ・チューン? それは難しいな。全曲が最高としか言いようがないからな。全ての楽曲制作に全力を注いだからね。リディムに関してもどれもが俺にとってスペシャルなものだよ」
 そのアルバムはあの快調なミディアム "He Speaks" オケの「Do Someth'n」で幕を開ける(そう、ブリトニーやビヨンセやマライア、ハル・ベリーといった名前が次々と飛びだすギャル・トークのアレだ…)。そしてアルバムのタイトルにもなっている「Concept Of Life」へと流れるのだが、大御所U-ロイと共に「男にはみんなワイフが必要だ」と歌う同曲で、ビーニとこの“フリーウィリー”及びプロデューサーのニール・エイモスとの相性の良さは誰もが確信するのではないだろうか。ヘプトーンズの「I've Got A Handle」のリメイク・オケでU-ロイのトーストが絡むというアイデアも最高だが、何より“主役”のオケのメロディに歌を重ねる技が効いている。ファウンデーション・リディムのリメイクと言えば、グリンゴを交えた続く「Love You」ではカールトン&ザ・シューズの「Love Me Forever」が使われていたり、

ジョン・ホルトとコーネル・キャンベルの両ヴェテラン(正に燻し銀!)を迎えた神の草アンセムの「
One Pound A Day」は "Father Jungle Rock" が、またショッキング・ヴァイブス・クルー繋がりのデヴォンテを呼び寄せた「Imagination」ではスリム・スミスの「Everybody Needs Love」が、“黒い神”を讚えた「God Black」では先のジョン・ホルトの「Sweeti Come Brush Me」が、あのルーツ・ラディックス・バンドの手により絶妙ないなたさ加減で焼き直されていて、このレーベルのコダワリどころがビンビンに感じられる。トラック・メイカー(ミュージシャン)はスティーリー&クリーヴィ、スライ・ダンバー、ダルトン・ブラウニー、ディーン・フレイザー、ルーツ・ラディックスからスク、ティーティマス、レフトサイドまでとヴァリエーション豊富で、ハード過ぎないジョグリン・リディムから滋味豊かなミディアムまで流石のラインナップである。しかも全編に通底する“まろみあるサウンド・アプローチ”は、ビーニ本来の陽性なDee Jayスタイルを上手く引き出して、“長年のファン”も文句ナシなのでは? それもそのはず、このアルバムは“プロデュース&アレンジ”を全面的にビーニとニールの2人が行っているとか。当の本人が「全曲思い入れタップリだ」と豪語するのも当然の話だろう。

 そんな感じで特記事項があまりにも多い会心作だけに書き出したらキリがないのだが、最後に“ゲスト陣”についてもう少し。先に触れていないところでは、スパイス、ザヘアー、レイザー・ブラウン、ゴースト、そしてヴォイス・メールもフィーチャーされている。

 「スタジオでオケを聴きながらリリックを合わせているうちに、ふとヴォイス・メールと一緒にこの曲(「Star My Show」)を完成させたくなったんだ。彼らに電話したら一も二もなく飛んで来てくれたよ」

 という“キング・オブ・ダンスホール”らしいエピソードもありつつ、のこのアルバム。まずは平和の使者“フリーウィリー”の日本上陸(この後にはシズラのアルバムやケン-Uの「A Ki Ra Ka Ni」も聴けるレーベル・ショウケースのリリースも予定されている!)を心より祝福したい。ビーニのリリックスの充実ぶりも歌詞・対訳でじっくり味わえるしね…。


"Concept Of Life"
Beenie Man
[Free Willy/P-Vine NonStop / PVCP-8238]