元デタミネーションズのアルト/ソプラノ・サックス奏者、巽朗がカセット・コンロスとタッグを組み、初のアルバム『King Goes Calypso』をリリース。早速、巽とカセット・コンロスのワダマコトに話を聞いた。

 昨年、惜しまれつつ解散したデタミネーションズだが、徐々にメンバー個々の活動がはじめられているという知らせは、ファンとしては喜ばしい。で、またそれがことごとく聴き手の予想を鮮やかに裏切るサウンドだったりして(要するに全然スカをやってないのだ)。Yossy Little Noise Weaverしかり、市原大資のNight Jungle参加しかり。それってやっぱり、デタミネーションズというバンドが彼ら自身にとっても大きな存在であること、また、デタミネーションズが奏でてきたスカへの最大級のリスペクトであることを(裏返しではあるが)証明しているような気がしてならないのだ。

 デタミネーションズのアルト・サックス奏者=巽朗のソロ・プロジェクトも、やはりスカではなかった。彼と手を組んだのは、カリプソをベースにした詩情あふれる音楽を繰り広げ、高い支持を集めているカセット・コンロス。

 「“ソラノネガイ”(デタミネーションズとして出演した野外イヴェント。結局これが彼らのラスト・ライヴとなった)の楽屋で、『今、ソロ作ろうと思ってるんやけど』って話してるうち、ワダ(マコト)くんやアンケン(安藤健次郎)とその場でセッションになったんだけど、それがとてもよくて。それからデタミの解散があったりといろいろあったけど、しばらくしてから、あの時の雰囲気がよかったなって思い出して、ワダくんに連絡して」(巽)

 「(本格的にやろうって話がきたとき)正直、いろいろ考えましたよ。俺なんか、深くスカを聴いてきたワケじゃないし、それになにより、デタミネーションズは究めたバンドだったじゃないですか? そんなバンドにいた巽くんと一緒にやることで、(作品を聴いた周囲の反応がもし)スカじゃないとか言われてもなぁって(笑)」(ワダ)

 「たしかに、裏打ちになるとパチンってスイッチ入ってまうね。『極道の妻たち』で岩下志麻のしゃべる関西弁が妙に気になるような。イントネーションがどうこうじゃなくて、ちょっとしたトーンの違いとか。そういう、うまく言い表せない部分やねんけど」(巽)

 「だから、俺らにしても、巽朗のバックバンドとしてやるのか、そうじゃないのか?ってところでいろいろ迷うところもあったかもしれない」(ワダ)

 「結構、ケンカもしたし(笑)。東京来るときは、今でも大抵ワダくんの家に泊らせてもらうんやけど、いろいろ聴きながら話してると、すぐに4時とか5時になってまうねんな」(巽)

 「でも、それが一気にわかったのが、一緒にロスコー・ゴードン聴いたとき。あ、スカって、俺にしてみればブギウギじゃん!って(笑)」(ワダ)

 お互いのルーツに共通する部分を見つけては、可能性を拡げていったこのプロジェクト。「Too Much Weight」「Last Waltz」などのカヴァー曲ももちろんのこと、巽の作曲によるオリジナル・ナンバーが素晴らしい仕上がりだ。
 「意識してるかわからないけど、巽くんは、サックスの音が映えるメロディを作ってくるんだよね」(ワダ)

 巽と、カセット・コンロスの安藤、山上ヒトミのそれぞれ味わいの異なる3人のサックスが重なりあい、強力なメイン・テーマを奏でるあのゾクゾクとした感覚は、本作最大の収穫だ。また、このプロジェクトでは演奏に徹しているワダは、いつも以上に4弦ギターを豪快に弾きまくっているし、Toshio FKとマエハラシゲルのリズム隊も、新たなアプローチに嬉々として挑んでいるように聴こえる。

 「カセット・コンロスはメンバーそれぞれがいろんなものを聴いてきて、それをグチャっと、いびつなまま出すことしかできないバンドだから。巽くんが入っても、やっぱりそれは一緒なんだよね」(ワダ)

 カリプソそのものでも、もちろんスカそのものでもない彼らの音楽は、まるでラフカットされた宝石のような、思い掛けない輝きを放っている。



"King Goes Calypso"
Tatsumi Akira
& The Cassette Con-Los
[King / KICS-1190]