日本におけるジャマイカン・ミュージック奏者たちによるスーパー・グループ、川上つよしと彼のムードメイカーズが2年ぶりとなるフル・アルバム『Mood Inn』をリリース。まさに旅のお供にはもってこいのムーディな音楽が満載だ。 |
ファースト『川上つよしと彼のムードメイカーズ』(2001年)、セカンド『Moodmakers' Mood』(2003年)に続く3作目のフル・アルバムとなる、川上つよしと彼のムードメイカーズのニュー・アルバム『Mood Inn』。2004年には『Floating Mood』『Sparling Mood』という2枚のミニ・アルバムをリリースしている彼らだが、“2年ぶりのフル・アルバム!”と言われると、確かに待望の一枚といった感じがする。なぜなら、上記2枚のミニ・アルバムは共に彼らの魅力をコンパクトに凝縮したようなおもしろさがあったものの、ファンとしてはもう少しヴォリュームのある楽曲集を聴きたかった、というのが本音だったから。彼らはいつも最高の“ムードをメイク”してくれるし、だからこそじっくり&たっぷりとそのムードに浸っていたい……という意味で、全12曲が収められたこのニュー・アルバムは待望の一枚なんである。 さて、まず今回のアルバムで特筆すべきなのは、全12曲中オリジナルが7曲を占めているということ。そもそもムードメイカーズはカヴァー曲をいかにしてオリジナルに調理し、フレッシュに聴かせるかというスタンスで始められたバンドだった。そして、そこには川上つよしをはじめ、ジャマイカ音楽のなんたるかを知り尽くした職人たちによる“粋”が息づいていたわけで、それこそがムードメイカーズを彼らたらしめていた。そんなムードメイカーズの指向性に若干の変化が見えはじめたのは、武田カオリ(Tica)を迎えたオリジナル歌もの曲に取り組み出した上記2枚のミニ・アルバムがひとつのきっかけだったように思える。今作にはそれらの楽曲(「Cry Moon」「Ice Ball」)も収められているが、ムードメイカーズの世界をその滑らかな歌声でオリジナルに表現できる武田というヴォーカリストを得て(今回は全4曲で武田をフィーチャー)、より多方向にその魅力を表現しはじめたような印象だ。 冒頭の「One Step Forward」はその武田による伸びやかな歌声が抜群の清涼感を与えてくれる1曲で、「古いレコードがくれたあの時間/それは過去への旅じゃない/現在をつなぐためのライン」というリリックが現在のムードメイカーズを象徴している……というのは少しチンケな深読みかもしれないね。前述の「Cry Moon」と「Ice Ball」、バート・バカラック作でディオンヌ・ワーウィックの名唱でもお馴染み(一部ではストラングラーズのカヴァーでもお馴染み?)の「Walk On By」という武田参加の4曲はおしなべて良い仕上がり。セカンド『Moodmakers' Mood』では古内東子と高橋幸宏を迎えて秀逸な歌ものを作り上げていたムードメイカーズだが、どんな曲をやろうともふっくらとしたヴァイブレーションが漂ってくる彼らのサウンドと武田の歌声の相性は本当にいい。 また全5曲のカヴァーもこれまで以上に「絞り込まれた感」が強く、どの曲にも彼らがリメイクする必然性といったものが感じられるものだ。“The Third Man Theme”は某ビール会社のTVCMでも使用されている映画『第三の男』テーマ曲のカヴァーで、シャキッとしたスカ調アレンジを支える川上のグルーヴィーなベース、そして秘かに暴れるHakaseの鍵盤捌きのカッコ良さはどうしたものか。トミー・マクックもカヴァーしていた「Suavito」のオリジナルはモンゴ・サンタマリアで、ムーディーなチャチャチャ。ムードメイカーズが誇るホーンズの渋いブロウもキマっていて(谷中敦も参加)、この足腰のしっかりしたユルさもムードメイカーズならではの味だ。「Where Is The Love」はダニー・ハサウェイ&ロバータ・フラックの名デュエットのカヴァーで、作者はパーカッショニスト/コンポーザーとして主に70'sフュージョン界で活躍したラルフ・マクドナルド。ラストの「Chopin's Nocturne」はショパン作の名曲をロックステディ調にカヴァーした技アリの1曲だ。 加えて、Hakase、山本タカシ、大石幸司といった各メンバーのペンによる秀逸なオリジナルも収録されていて、まさにあらゆる方向にその好調ぶりを見せつける今回のアルバム。ちょいナンパなムード作りにも使えるかもしれないけど、じっくり聴いちゃって隣のカワイコちゃんどころじゃなくなっちゃうかもね。お気をつけあれ。 |
"Mood Inn" 川上つよしと彼のムードメイカーズ [Cutting Edge / CTCR-14439] |