フル・アルバムとしては3枚目となる『From Rainbow Town』をリリースしたThe Miceteeth。今まで以上に練り込まれたスカのビートと上質なポップスを融合させた、素晴らしいアルバムとなった。

 先日、日比谷野音であったイヴェントで久々にマイスティースのライヴを目にした。これまで以上にまとまり感のあるアンサンブルを聞かせていて、そのしっかりとした足場の上で、ヴォーカル次松が、これまたいつにもまして自由奔放な存在感を見せていて、益々いいバンドになってきてるなぁと、青空の下、ビールを飲みながら思った。

 前作『Baby』までのマイスティースは、言うなれば若さゆえの模索期。スカを好きではじめたが、それだけでは広く自分たちの音楽を浸透させることはできないという想いのもと、ストイックなほどにのスキルを高めることへ念をおき、70年代のソウルのホーン・アレンジを分析しては、バンド・サウンドに置き換えたりと……よくいうじゃないですか、どんなバンドもセカンド・アルバムが分かれ道だって。そしてサードで真価が問われる、と。で、マイスティースの新作『From Rainbow Town』。プライヴェート・スタジオでじっくり時間をかけて作られたという本作で、彼らはあらためてスカという音楽と向き合った。それは、スカへの憧れをただサウンドにぶつけるというのとは違う。前作までの流れを踏まえて、広く多くの人に聴いてもらうためにも、スカという音楽がもっとも効果的なんじゃないか?という発見だ。

 「今度のアルバムで、ポップなのを作ろうとしてスカになったのは、なんとなく想像できてたんですよね。もちろん、単純にわかりやすくテンポ感みたいなところもあるし。陽気な雰囲気があるから、その雰囲気をもっと全面に出したいって思いましたね。それに、『Baby』の曲なんかは、演る側もライヴで再現するのは難しかったりして。ライヴだと、やっぱりスカのほうが楽しくできる、その楽しさってのがポップとつながってるんですよね。で、もともとスカが中心にあったもんやから、あらためて楽しみ方をわかってきた」(次松)
 ポップ・ミュージックとしてのスカ。ユニバーサル・リズムとしてのスカ……ちょっと遠回りだが、そういう気持ちをもったきっかけとなるひとつの要因となったのは、ビートルズだったという。

 「ビートルズっていうのが人生初キーワードになって……26の夏にビートルズを聞き倒したんです。そのときに、ビートルズのもつポップ感に圧倒されて。シタールいれたり、めちゃくちゃじゃないですか? 音の配置とかも野蛮というか、わざとディフォルメされた感じの。でも、あんな音楽なのに世界中の人が知ってるワケじゃないですか? あんだけサイケデリックなのに、ポップって言葉のほうが先に来るビートルズってなんやねん?って。で、それが海を渡って、アメリカのロックやジャマイカのスカにも影響を与えてる、そのパワーがね」(金澤)

 ビートルズが多くの人に愛されたのは、もちろんそのメロディにも、歌詞にも理由はあったのだろうが、サウンドのところどころに耳を奪う、ひっかかりがあったからというのもたしかだと思う。彼らは、ビートルズが持ってた、そういう部分のポップ感を、スカのリズムに共通する魅力があると再確認したんじゃないだろうか? 速い裏打ちのあっけらけんとした明るさとか、多くの人間の音が重なることから生まれる、心地よいズレ感とか。

 「スカの本質でもあると思うんですけど、人間ミュージックというか。その人そのものの音しか出ないっていう。音楽ってウソをつけないじゃないですか? やっぱり、弱いヤツは弱い音しか出さへんし、強いヤツは強い音出すし。もっというと、ホントそいつの会話のまんまの音が出るんですよね。スカはセッションで生まれる音楽やから、このアルバムではコミュニケーション感がもっと密になった感じですね」(金澤)

 あ、ビートルズが多くの人から愛される理由がもうひとつあった。ぱっと見、あんまりワルそうじゃないところ。ホントはわかんないですけども。でも、ファースト・インパクトの良さって、コミュニケーションのうえでは大切だから。だから、マイスティースは多くの支持を獲得するファクターをたくさん持っているんだと思う。



"From Rainbow Town"
The Miceteeth
[Substance / BSCL-30035]

"Sleep On Steps"
The Miceteeth
[Substance / BSCL-35021]