レゲエ界きってのエンターテイナーであり開拓者でもあるDJPapa Bが名曲「Live Up & Rise」に次いで6/8、アルバム『Untouchable』をリリース。ダンスホールに自身のルーツ・ミュージックを織り交ぜて更に進化したPapa Bの世界が凝縮された逸品だ。


 楽しい。本当、楽しいアルバムだ。それはネオ・エンタティナーならでは、というよりも“楽な気持ちで溢れるアイデアを形にしていった”という印象が“凝りまくった部分が魅力の一つだった”前作よりも“より強い”からに他ならない。電話口の“彼”の声がとても晴れやかだったのは言うまでもない。

 「タイトルですか? これは僕自身がアンタッチャブルって言いたい訳じゃなくて、自分にとって未知の部分にトライしたって事ですね。前作と同じく出来上がってから付けました。制作期間中は新しいものを追っかけるよりも古いものを見直してた時期でもあって、アルバムも自然とそういう要素が強くなりましたね。"Crasher" は固定概念をブチ壊すというコンセプトの曲なんで、イントロじゃなくてあえて頭に持ってきたんですよ。森(俊也)さんのオケを聴いた瞬間に決まりましたね(笑)。"Revolution" もヴァージョンが走ってるんで、そこに乗っかるか乗っからないか程度のトークオーバーが合うんじゃないかと。連打系のライミングも久しくやってなかったので新鮮でしたね。勢いで1〜2日位で仕上げました。シングル曲の "常夏王女夏女〜ココナッツ王女ナツメグ〜" はJungle Rootsのオケ集をSami(-T) と聴きながら盛り上ってて、このオケが鳴り出した途端にSamiが急に裏声で歌い出したパンチラインが発展した曲で。

本人は後から“歌ったつもりはない”って言ってるんですけど(笑)。家に帰ってへプトーンズ「Book Of Rules」辺りの軽快なリズムを参考に作っていったんです。昔の化粧品のCMみたいに一つ一つの言葉がキャッチーな感じを意識して書きました。"Live Up & Rise" はライヴでHome-G(rown) とやってた曲に3ヴァース目を付けて完成させたんですけど、折角だからミックスダウンも頼んだところ、良いエンジニアの方が付いてくれて。サビの部分とか特に気に入ってますね。リバーブのかかり具合とか……流石です。"Murderer" ではとにかく嫌なニュースが多かったので、世の不条理について被害者の心情で歌ってみたんです。

これはマイナー調のオケだろって事でマックス・ロメオの「I Chase The Devil」辺りの世界観を投影しました。最近よく思うんですけど、弱い精神の持ち主ほど悪魔に取り憑かれ易いんじゃないかって。簡単にさしたる理由もなく人を殺してしまえるのも、だからなのかって。僕は音楽をやっているので自分の表現でそんな世相に物申させてもらいました。次の "怒!怒!怒!" は逆にギャグですね。Guan Chaiとはコンビは実は初で、どんなコンビの曲にしようか考えた結果、あえて喧嘩の曲にしたんですよ(笑)。Guan Chaiが『鬼平犯科帳』にハマってるって事は知ってたのですが、このオケもそんな自分の趣味丸出しで(笑)、しかもニュアンスはしっかりレゲエだったので。リリックは二人して飲み歩きながら面白く書けましたね。ライヴではコント仕立てでやろうかと企んでます。

 "Skaっと感動!!" はその名の通りスカなんですけど、音の部分でも凄く拘ってやってもらいました。ミックスも森さんにお願いして。スカをやってみたいな、とは前から思ってたんですけど、友人を通じてスラッカーズと知り合ったりして、そういう気持ちが頂点に来てたんで。ホーンズのメロが最初に浮かんでオケを打ち込んで、後でJungle Rootsにプレイしてもらいました。リリックは逆にあんまり意味ないものにしたくて。スジが通っててオチがあればいい、という感じで。今回のアルバムは割とそういう書き方でやっていますね。ふと浮かぶ言葉を大切に、あまり考え込まずに書いた、というか。書かなきゃ!って思い詰めてやるよりもその方が実は早く出来たりするんだ、って事もよく判ったので。"Pressure" のオケはこのアルバムを代表するキャラクターかな、と自分では思ってて。コーラスもFire-Bだしインパクトの強い出来なので、ここぞ、という位置に持って来たかった。次の "Snatcher" は同じメロでリリックが違うというものをやってみたくて。ヴァースを入れたらクドくなりそうなのでサビだけなんですけ(笑)。

Pushimとの "Fantasy" はモータウンの映画を観てインスパイアされて、その日の夜のうちにキーボードを打って作った曲です。70'sソウルの女性Vo.と男性Vo.が同じメロディを歌ってるような感じにしたくて、こういう曲を歌える人は、と考えたらPushimが思い立ったんです。DeeJayとしてやってきたのにいつしか歌う事が増えてきて(笑)、そこは無理にでもDeeJayスタイルで乗っけなきゃ、というよりも出てきたもの、イメージに忠実にやれるようになりましたね。歌は音外せないし勉強になる事多いですね。オケはディスコ調なんですけど、レゲエのニュアンスもしっかりあって、そこは外池(満広)さんが僕のやりたい事をよく理解してくれていたので安心しました。"あたたかや" は4〜5年前に出来てた曲なんですけど、前作での "One More Chance" の役割と言うか、突然入ってたら面白いかなーと。ボサノヴァ調の曲なんで、ボサノヴァ好きのアルファ(エレタープライズ)の小林さんに相談したところMingaを紹介してくれたんですよ。

作品を聴いてみたらアフロ・ビート系のジャズでブルガリアン・ヴォイスのカヴァーとかもやってて、凄く魅力的なバンドだという印象を受けましたね。ボサノヴァの囁き系の歌い方と思いきや、意外と凄く肺活量が必要で(笑)。そこは苦労しましたけど満足いく出来になりました。最後の "時間を止めてくれ" は『ウォーリアンズ』のサントラで聴いたのがずーっと残ってて、日本語詩にして歌ってみたんです。このラスト3曲あたりの毛色の少し変った感じは次のアルバムでも繋げていきたいですね。前作が完成した時との気持ちの違いですか? 今回は出来上がってもまだソワソワしてる(笑)。早く次の曲を書きたいな、ってモードなんですよ。今回は子供の頃に聴いてたレゲエの他の音楽、パンク、ロックとかテクノ・ポップとか色々ですけど、その要素がよりミックスされているというか。まだその進行形ではあるんですけど、どうやってレゲエと接点をつけてやっていくかという試みの真最中で。昔好きだったものを否定したくなくて、それをどう生かしていくか。そのキッカケになったアルバムかなあ、と思ってます。こうやって作品が出来上がる度に思う事ではあるんですが、これをどう感じてもらえるか興味深々ですね」





"Untouchable"
Papa B
[Toshiba EMI / TOCT-25686]