昨年、サントラ盤『茶の味』をリリースしたもののオリジナル・アルバムとしては2年振りとなるリトル・テンポが新作『Super Tempo』をリリース(5/21には当然ダブ・アルバムも待機)。これがまた素晴らしい出来だ。早速、土生剛に話を聞いた。

 「一昨年、(リー・ペリーがホストを担当したイベント)“Meltdown”に行った時に、リー・ペリーとちょっとだけ話す機会があって、その時に“Little Tempo Is Super Tempo”って言ってくれて。それがずっと頭の中にあって。それ以上、良いタイトルが思い付かなかったんだけど、でもそれくらいぶっちゃけちゃってもイイなと思って。シンプルだし」

 正直、ここまでニュートラルなアルバムが届くとは思っていなかった。トゥー・マッチ・ギミック&キーワードな日本の音楽業界において、この姿勢、そしてこの音楽こそが、言葉本来の意味でのパンクでありレベルなのかも、と思わせてくれる一枚。それがリトル・テンポの新作『Super Tempo』だ。

 とはいえ、彼らの音楽がヒリヒリとした切っ先の鋭い、聴く者を選ぶ音楽ということではない。彼らの音楽は全ての人に開かれている。例えば、なにげなく入った喫茶店で流れていて心奪われる、名も知らぬ音楽家による演奏。誰がどこの国で、いつ創ったのか、それがどんなジャンルかなんてことは関係ない。本来、そんな情報と音楽は切り離されるべきだし、筆者は、そんな知識は音楽を聴くにあたって必要ないと考える(考えたい)人間のひとりである。そして、もし読者の中に同じような考えの人がいるならば、このアルバムを聴くことをお勧めしたい。

 前作『Musical Brain Food』から約2年ぶりの作品(サントラ『茶の味』は土生によると“別もの”だそう)となる『Super Tempo』は、その間に積極的に行われたライヴの感触が強く反映されている。

 「アルバムを作る前にずっとギグをやってきてて、その流れでレコーディングに入れたというのもあるんで。録音するために集まり直してというのもなかったから、バンドのコンディションも良かったっていうか。今回は、その流れの延長線上で、そのノリを録ろうっていうか、もう“演奏さえ良ければいいじゃん”っていう。やっぱり、ライヴやってなんぼだなっていうのはあるし、結局……演奏自体がシンプルになってきた。録音でいろいろ積み重ねるというよりかは、みんなで演ってどんな感じになるかイメージとして見えるから。そういう意味でギグを多くやってきたのは正解だった。“アルバム作るぞ!”っていう意気込みはもちろんあるけど、流れに身を任せながらリラックスしてできましたよね」

 そう、とにかくリラックスしていて、楽しい。どこの街にもいる、酔っぱらい仲間の「おっさん」9人が「喧嘩もしながら」ゆるく、しかし彼らにしか出せないグルーヴで音楽を紡いでいく。それに合わせて踊りだす人もいれば、一緒に歌いだす人もいるし、身体を動かす人がいる。その9人が誰かなんてことは関係なく。音楽が音楽である時間。このアルバムがスピーカーから流れている間、そんな幸福な空間が、あちこちで生まれることだろう。

 「自分達は自分達にしかできないことをやりたいし……その辺があまり気負いもなく。もう今さら“オシャレなバンド”って言われないで済むし、その辺はオヤジの特権かなと(笑)。まぁ音楽ぐらい楽しくやらせてくれよっていうか、楽しくやりたいし。特にこんなご時世じゃないですか、ノイローゼの人も多いし。アルバムを作るときに唯一こんな感じにしたいというのがあったのは“明るい感じ”のアルバムにしたいという、それだけ。リラックスした音楽。狙っているわけじゃなくて、演ってる人達のヴァイブが出るんだろうからね」

 最早“レゲエ”“ダブ”と括るには懐が大きすぎる、時代や国籍を感じさせない(それこそが現代なのだろう)オリジナル楽曲に混ざって、「Summer-time」「My Baby Just Cares For Me」というスタンダードすぎる名曲のカヴァー2つも、彼らの経験と姿勢を表している。

 「“Meltdown”に行ったのに附随して、パブとか路上でもライヴをやったんですよ。結構そういうのが面白くて。そういうのに人が来るのよ。(スタンダードのカヴァーに関しては)世界共通で反応が良いんですよ。ロンドンでやったギグでも反応が良くて。ドサ周りから得た感触というか(笑)。みんな知っている曲で楽しめれば、それで良いし」

 土生は今後、音楽制作だけでなく流通方面にも関わっていきたいと話す。これまで、メジャーの流通では困難だった輸入盤店やカフェ、雑貨店へ作品を卸していけるようにするという。

 「最近、ビジネスマンっすよ(笑)。とにかく今は、もうちょっとディールの話とか、流通とか勉強して。できれば安く作って7インチで切っておいて、貯まったらCDとかでリリースして……そういうスタンスでやりたいなと思っていて。やっぱね、ちゃんとスタワンとかに学ばないといけないからね」

 作品を創ってリスナーの耳に届ける。音楽が音楽としてあるべき形を、リトル・テンポは指向する。繰り返そう。現在のリトル・テンポの音楽は全ての人に開かれている。あとは貴方次第だ。




"Super Tempo"
Little Tempo
[Victor / VICL-61592]]