前号ダブセンスマニア『Disappearance』の評文で、このように日本のアーティストのアルバムを海外の大御所たちがダブ・ミックスとして手掛ける現状を「感慨深い」と書いたのだが、今回はサイエンティストということで、感慨にふける以前に忸怩たる思いがあって極り悪い。92年の『レゲエ・マガジン』30号で、目立ちたがりの僕は、まだダブ・アルバムなどほとんど聴いたことのない白面のくせに、ヤビー・ユーとマイケル・プロフェットのアルバム評で「サイエンティストだからこの程度のミックス」などと吐かしていた。当然その青臭さを見抜かれ、次号で米光氏にやんわりと窘められたのだ。
閑話休題、この『Freedom Dub』はレーベル側による企画物と思われるが、サイエンティストは全然手を抜いていなかった。それどころか、手をかけすぎて発売が一月以上遅れている。
元アルバム『Freedom』を聴いて感じたのは、どっかで聞いたことがあるフレーズ、アレンジが満載で、リラックスして聴ける典型的レゲエ・アルバムということ。無論これは賛辞であり、皮肉な意味など微塵もない。ダンスホールでガツンとやられ、その後ゆるやかにルーツ・ロックへ傾倒していった僕なんかにとって、とても親近感を覚えるサウンドだ。結構歳も近いかな? またヴェテランのジュニア・ディーは、堂に入ったDJスタイルもいいが、ここではそれ以上に歌に注目したい。その点で、今回のダブ盤では「おまけ」として収録された10曲目の「I Say」は、大正解だったと思う。
サイエンティストは80年代一連のマンガ・ダブや、その他の代表作で遣らかしてきた遊びや技法を、ここでも惜しみなく披露し、あのゴリッとした特有の雰囲気も維持されている。過去との違いを挙げるならば、トラックの抜き差しは控えめになったこと。その反面、多くのダブを聴き込んだリスナーが、これぞサイエンティストのオリジナル・テクニックだとしばしば主張するディレイ・フィードバック音の左右振り分けは、全編に渡りくどいほどに繰り返される。本当にしつこい。スクラッチやマッド教授より、この人のほうがよっぽど狂ってると思わせる瞬間だ。
このイフェクト処理の独創性についてサイエンティスト本人に尋ねてみると、「あまり、他のクリエイター達のダブ作品を聞いていないから(中略)全てはフィーリングなんだ」と曖昧で、ダブ・クリエイターとしての矜持が感じられない。それとも他者を全く気にしない、自信の表れだろうか。
狂ったイフェクト処理に驚かされながらも、全体としては心地良く余韻が残る本アルバム。本誌255号振動弐百のインタヴューで、メンバーの萩谷雄一が「気持ちいい」を連発していたが、彼らが追求するその気持ち良さに、サイエンティストも見事に呼応している。これはアーティストというより、職人の仕事だろう。
『Freedom』に対して感想を求めると、「タイトルの通り、Freedom Soundって事かな。私達の考えるレゲエのスタンダードってヤツにとらわれる事のない自由さかな」と答えた。蛇足だが、サイエンティストは今回手掛けた曲の中でも「Dub & I」と「Mi A De Dub」のそれぞれ元曲、「I & I」と「Mi A De Best」がお気に入りのようだ。後者はマテリアルによるイエローマン84年の「Strong Me Strong」を思い出させるファンキー・チューンで、その12インチ・シングルB面収録のダブ「Dub Me Strong」では、まさにフィードバック音の左右振り分けが使われていた。ビル・ラズウェルたちまでも、当時のサイエンティストに影響されたのだろうか。
(インタビュー協力/Calman Scott)
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