Lloyd Barnes
Douglas Levi

  昨年、好評を博したDubsensemaniaの『Appearance』のミキシングはDennis Bovellが担ったが、今回リリースされるそのダブ盤『Disappearance』ではWackiesのLloyd BarnesとDouglas Leviに音を託し、最新型のWackiesサウンドとなった模様。

 メーカー側の誂えか、アーティスト独自の発案かは不明だが、このダブセンスマニアや次号紹介予定の振動弐百がダブ・アルバムを発表できるとは、良い時代になったもんだ。いや本心だって。時折憎まれ口をたたくので、ひねくれた物言いを期待されることが多いが、良いことは良いと言いますよ、僕だって。ちょっと前までは、海外の大御所らの手による日本のアーティストのダブ盤なんて、なかなか出せないような思い込みがあったから、感慨深くもなるわけ。

 CDの後に発売された同アルバム『Appearance』のアナログLPでは、その音質が好評だったと聞くダブセンスマニア。デニス・ボーヴェルの手によって構成されたしなやかなルーツ・ロック・サウンドを本誌258号で僕も推奨したつもりだ。そして、リーダーのラス・タカシが、96年の出会いからその信頼関係を築いてきたロイド・バーンズ(ブルワッキー)とダグラス・リーヴィ(本誌226号「Dub No Dead」参照)らの手で解体し、デフォルマシオンとして再現させたのが今回の『Disappearance』。

 原価など高が知れているのに、新宿あたりの中古屋ではボッタクリの高値をつけられていたホレス・アンディの『Dancehall Style』と同じ制作陣によるダブ・ミックスということで、あの質感を期待するリスナーも多いだろうが、それは見事に裏切られる。元曲よりもベースだけはさらに凶暴性を増し、特にキーボードに顕著な、過剰ともいえるほどのイフェクト処理。旧来のダブに多い、間の妙に主眼を置いた抜き差しは少なく、よってディレイがかかったヴォーカルがヴァースまるごと残っていたり。中高域全体を抑え、ハイハットだけを残すようなあの感じも、まるでない。

 「本当にワッキーズか?」と、ちょっと訝ってしまったが、考えてみれば時代も違う。それならあの頃と今の中間点のワッキーズでも聴き直そうと思い、ジャッキー・ミットゥの『Wild Jackie』に針を落としてようやく合点。89年リリースのこのアルバムで、既に試行錯誤の跡が窺える。近年再発が続く同レーベル70年代後半〜80年代前半の一連のダブとはかなり趣が異なり、標題(disappearance=失踪)とは対蹠的な感がある。ダブセンスマニアが現前するダブだ。失踪なんかしていない。

 これが現在のワッキーズ・スタイルなのか、歌詞やキーボード・サウンドを重視するダブセンスマニア向けの特別仕様なのか、ブルワッキー本人に質すことは間に合わなかった。まあ、筆者同様最初惑わされてしまった読者諸兄は、何度か聴いてみると良い。イフェクトが派手なのになぜかスルメ曲という、珍しいタイプだということに気づくだろう。





"Disappearance"
[Sony / AICL-1600]




"Appearance"
CD [Sony / AICL-1553]
LP [Sony / AIJL-5237-8]