先月号でも、ムーミンのライヴ・レポートを書かせてもらったのだが、今回のお題は、その映像を作品化したDVDと、彼のフィーチャリング・ワークを集めたCDのレヴューだ。この2作品が11月24日に同時発売されたということをお題において、僕がまず感じることは、先月も書いたが、今更ながら「すっかりムーミンもベテランなんだなぁ」と感慨深く思うのであった。第一人者としての貫禄と、その平均したクォリティの高さを実証する様に、どちらも内容がいい。そうした域にムーミンが達したんだな、と思うのである。あっと言う間に過ぎた月日の流れを、一気にドッカーンと感じ、すっかりオヤジになった気分である。
ムーミンの活動の歴史は、形を成し始めたジャパニーズ・レゲエが、より多くのリスナーを掴むためにトライを重ねて、ひとまず現状のシーンに辿り着いた道程そのものである。
ムーミンがメジャー・デビュー曲となるマキシ・シングル「Fly Again」をリリースした1997年当時、CDショップのジャンルのカテゴライズの中には、まだ「J・レゲエ」というコーナーは無かった。洋楽のレゲエのコーナーか、一般のJ・ポップスと同じ「M」の欄で探すしかないといった状況。そんな中、洋楽レゲエを担当しながら、ジャンルとしてのジャパニーズ・レゲエの確立に賛同し、積極的にコーナーを作ってくれるCDショップのバイヤーの方々も増えてきた。最初はそうした少数の理解者の存在が勇気となった。ムーミン自身、核となるレゲエな部分と並行して、単純に「シンガー・ムーミン」の歌のうまさ、良さを惹きたたせる様な楽曲も用意され、それがそれまでJ・レゲエを知らなかったリスナーも着実に引き寄せ始める。
ストリート情報誌でのJ・レゲエの取扱いも今程ではなかったし、そこに積極的に向かって行ったのもムーミンだった。FMなどの電波への登場も、最初は小さなところからコツコツと始まったものだった様に思う。特に現在はTFM系列の38局ネットで聞ける様になったムーミン、プシンがナビゲーターを務める「Soul Jammin'」も、継続してきたものが力となった一例である。
ホーム・グロウンの登場と共に、ステージ・ショウの面白さが全国規模で知れ渡る様になったのは2000年辺りからだろうか。そうした盛り上がりが多くのアーティストのステップ・アップの契機となった。そしてその多くがムーミンとの作品の共演を経験している。ここでも、さり気なくだが、シーンに対する大きな貢献を彼は果たしている様に思う。
そう、ムーミンはさり気ないのだ。だから本人的にはシーンを牽引してきたなどという気負いは無いだろうが、こうして振り返ると、彼が先陣を切ってきたという事実が改めて浮かび上がってくるのである。
ムーミンの歌は、彼のパーソナリティそのままに、決して押し付けがましく無く、他人にプレッシャーを与えることなく、さり気なく、気持ち良さと、ホッと気が楽になる様な形の励ましを与えてくれる。レゲエ好きなら分かると思うが、みんな気楽な気持ちいい歌が好きなはずだ。これもやっぱり、レゲエという土壌で育まれたバランスなのだと思う。そしてそうしたアーティストは数多くはいない。ムーミンが誰とやってもコンビネーションの相性がいいのも、この辺りに起因しているのだろう。相手を活かしていい曲に仕上げる。そんな彼の、最近のフィーチャリング仕事を集めたのが「Moomin & Friends」名義でリリースされた『Featuring Works』だ。
この作品のいいところは、まず、サウンド・プロダクションが豪華だということ。相手のフィールドでこなした曲は、当然、向こうのプロダクションの仕事だ。招いた側は入魂の1曲だろうし、ムーミンもそれに合わせて曲作りをしているのだから、いつものムーミンでは聞けない様な作りや工夫が凝らされている訳だ。例えばキーコに招かれた10曲目「Catch The Vibration」などは、超絶パーカッショニストGenta氏のティンパレスさばきが聞ける。
コーン・ヘッドとの6曲目「Wake Up」のマカロニ・ウェスタン風の雰囲気は、ムーミンの得意とする歌謡ダンスホール的な曲調とのマッチングが非常にいい。ヨーヨー・Cとの1曲目「Golden Love」がいいのは当然だ。と、いった感じに、今まで気にはなっていたけど、お小遣いの関係から手を出せなかった曲が一気に聞けるという点では、ムーミン・ファンは嬉しいはず。そこから元のアーティストへの興味や広がりも望みたい。ムーミンを中心としたコンピであるという側面からも、バラエティに富んでいるし、いかに「フィーチャリング・ムーミン」というのが気持ちよく聞けるのかということを再確認出来る内容だと思う。
一方のDVDは、先月リポートさせてもらっているので、詳しくはそちらも参照して欲しい。アーティスト単体で90分以上に渡ってステージを飽きさすことなく見せられる力量に感服すること請け合いだ。
という訳で、勝手にムーミンを総括してしまった感のある今回の原稿であったが、きっとムーミンも何かしらの新たな始まりを感じていることだろう。リフレッシュを果たした後の、次の新作に期待したくなる感じだ。
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