ラスタカシ、PJらを擁するDubsensemaniaのファースト・アルバム『Dubsensemania』から約3年半振りとなる『Appearance』がソニーよりリリースされた。レゲエ・ミュージックを知り抜いた7人の男たちによる、甘く、凶暴なインスト・ダブ・アルバムが完成した。

 約10年ぶり位のレゲエ・ブームだろうか。「ブームに乗じて“夏だ!レゲエだ!”といった謳いの安易な企画物がどんどんリリースされるみたいです」と小売店のバイヤー諸兄諸姉からメールで愚痴をもらっているが、まあ「だったらそんなもの一切仕入れるな」としか言えない。難しいのは解ってるよ。店長には叱られるだろうし、メーカーとの関係もあるだろう。でも、その程度の反骨精神と度胸がなきゃ、この音楽は扱っていけないのではないか。もちろん作る者も、売る者も、買って聴く者も、とつくづく思うクソ暑い夏だ。

 「オーガスタス・パブロの後継者」という触込みで話題となったアルバム・デヴューも記憶に新しいラス・タカシを中心に結成されたダブセンスマニアが、8曲入り46分強のアルバムでメジャー・デビューした。待ちわびたファンも多いだろう。ダブであり、インスト・バンドとして紹介されてきたが、軽快なヴォーカル曲も多く、それぞれリードも担当が異なる。「(誰かをメイン・ヴォーカルに据える)考えはないです。コーラスを含め、4人全員で歌えるというのが、バンドの良い所です」
 
 また、例えばロイヤル・ラッセズやソウル・シンジケート、ジャッキー・ミットゥといった先達同様、他ジャンル・マナーの演奏に全く外連味を感じない。その様な聴き手側の反応もお見通しなのか、1曲目の「Movement」は、各メンバーのソロを中心に構成し、威風堂々とした出現(Appearance)だ。これ聴いた後、坂本龍一の『サマー・ナーヴス』やハービー・ハンコックの『Secrets』を思い出して聴いてしまったけど、まあそんな感じ。力強いだけでなく、しなやかさを兼ね備えたサウンドのグルーヴは、メンバー全員で組み立てていったとの事だが、中でも特にその貢献度が高かったのは、シンガーとしてはキャリア20年を超える、しかしここではドラマーのPJではないか。そして、彼の甘く伸びやかなヴォーカルこそが、このしなやかさと一番マッチする様にも感じられた。

 ところで僕は「ラヴァーズ・ロック」という言葉を狭義では肯定する。そして、デニス・ボーヴェルにミックスを施されたこのアルバムは、正真正銘のラヴァーズ・ロック・アルバムだと思う。広義で否定するのは言わずもがな、その様に銘打ったまがい物(例:クラブ系歌姫○○○○のナンチャラ・ラヴァーズ・ミックス)が多いからだ。ついでに言わせてもらうが、とにかくレゲエが好きな奴にもっとダブセンスマニアを聴いてほしい。この音は危なすぎる。いや、巷で若いもんが使う「ヤバイ」ではなく、フリー・ソウルとかその周辺のヘンな連中にもてはやされてしまう危険を孕んでいるという事だ。その楽曲の素晴らしさゆえに。

 「ルーツ・ロック・レゲエの定義」について彼らに尋ねると、「Rebel Music、Black Vibes」という答が返ってきた。饒舌ではないが簡潔。後は聴けば判る。





"Appearance"
Dubsensemania
[Sony / AICL-1553]