レゲエ・ミュージックの数十年に及ぶ歴史の中で、エンジニアが果たしてきた役割は極めて重要なものがある。キング・タビー、リー・ペリー、ジャミー然り…。現在でもそれは同様で、ドラム、ベース、ギター、キーボード、そしてヴォーカルといった一音一音を加工し整え、楽曲を単に完成させるだけではなく、そこにダブという手法で、更に独創的な作品に仕上げてくれるのだ。
「(レゲエは)ダブっていう作業で最終的に曲の構成を作るから、エンジニアはエンジニアじゃなくてミュージシャンだと考えています」とはHome Grownのリーダー/ベーシストのTancoの弁。間もなくリリースされるHome Grownのニュー・アルバム『Time Is Reggae』には数多くのジャマイカのエンジニア達が多数参加している。もう説明不要とも言えるジャマイカン・トップ・エンジニアのSteven Stanley、プロデューサーとして素晴しい作品を世に送り出しているBobby Digital、〈Fat Eyes〉レーベルを運営しているBulbyことCollin York、トラックメーカーとしても数多くのヒット・リディムをクリエイトしているShamsことRichard Browne、そしてJackie Mittooのトリビュート盤や
Lucianoの最新盤でかなり良い仕事をしているRohan Dwyer。現在のジャマイカで考えられる最高の布陣と言っても過言ではない人選である。
「Bobbyはベースの重心が低くて、それが思った通りの音だったかな。Stanleyは、ハイファイ指向で、上(ハイ)がヌケてるっていうか、それでマスタリングでロウを足してやるといい感じになるね。Bulbyはヌキが素晴しい! Rohanは気になるエンジニアだったから、インストの曲を頼んでみたんだよね。BulbyもRohanもミックスの時に音を足してきたりして、日本のエンジニアじゃ考えられないっていうか、参加型だね。Shamsはスタジオの機材はチンケなんだけど、音が太い。アレンジしてる時からエンジニアを想定してるから、Stanleyだと音数が多いと活きる人だと思うし、逆にBobbyだと音数が少ない方が活きてくる人だと思うね」(Tanco)
今回のニュー・アルバムは先月号でもお伝えしてる通り、17曲収録されているが、そのうち14曲がジャマイカにおいて上述されたエンジニアによってミックスされている(残りの3曲のうち1曲はD.O.I.、2曲はほとんどのレコーディングに参加しているペニンシュラ・スタジオの平田氏)。聞き比べて、なるほど!どの楽曲にもエンジニアの個性がうまく反映されてる。現在、日本においてアーティスト、ミュージシャンは充実してきているが、レゲエを充分に理解しているエンジニアはまだ少ないのが実情だ。最後に将来への期待を含みつつTancoの言葉で原稿を締めよう。
「エンジニアはミュージシャンだっていう意識が大事だね。作ったものをきれいに並べるんじゃなくて、それをどういうカッコいい曲にするかっていうとこにかかってくるね。一回ジャマイカのスタジオに飛び込んで、ノーギャラでもいいからやってみるといいかもしれない。百聞は一見にしかずだからね」
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