“Back II Back”、それ即ち“基本”なり。「ブレイクビーツの2枚使いラップ。それが基本だなー、と改めて思うようになって…。勿論、色んな新しい実験をやっていくのも大切なんだけど、この基本だけは絶対に忘れちゃいけないと思うんですよ」
 そして話しは15年ほど前に遡る。

 Krush Posse。それは、B Fresh 3にいたDJ KrushとMuroが、DJ Goを引き入れて作ったグループだった。
 「強烈だったんだよね、言葉の持っていき方が。その時俺は同時進行でB Fresh 3をやっていたんだけど、凄く一緒にやりたくなって別のグループ、Krush Posseを作ったんだ」(DJ Krush/白夜書房刊『オール・アバウト・キング・オブ・ディギン:ムロ』より) 

 筆者も当時、幾度となくKrush Posseのライヴを観ているのだが、彼等は明らかにそれまでの日本のグループとは違っていた。80年代終盤といえば、まだまだ現場的にも演る側と見る側の距離感が今とはまた違う意味で無い時代だった。しかしそれだけに“日本語ラップ嫌い、なヒップホップ・マニア”も相当いた訳で。そんな輩も「こいつらは本格派だ!」と唸らせるだけの何かを彼等は持っていた。

 Muroが今回のキャリア初となるベスト・アルバムを編集するに当って、まず“入れなければならない ”と強く感じたのが、入手困難を極めるそのKrush Posse時代の楽曲であり、またその後(解散後)一度も共演する事がなかったDJ Krushとのタイマン勝負による新曲、だったという。そして、この『Back II Back』は、その待望の合体による "Hallcination" からスタートする」
 「まず(Krushから)ビートを貰って、想像していたようなものと全然違って驚いたんですよ。もう、すっかり興奮しちゃって。改めて俺はここから生まれた子供なんだな、って実感しましたね。音のクオリティとか勿論世界レベルだし、全然サンプリングしたくなるような音だったんで。間違ってなかったな、とかんじました。リリックでは当時のこととかも振り返りつつ、フロウは色んなパターンでやってて……当初の計画では誰かをフィーチュアしようと考えてたんですけど、ビートを受け取った後はこれはKrushとのタイマンだから一人でやりたい、と思って。お互いキャリアを振り返れた部分もあるし、お互いにとって良いコラボになったんじゃないかな、と」

 そんな魂心のブランニューに続くのは、伝説の『Yellow Rap Culture In Your House』('90)に入っていた "KP"。無論、この音楽がCD化されるのは初めての事。その後に続くのはMicrophone Pager時代のクラシック群。
 「正直、最近聴き始めたような子達から見れば、Muroといえば "Chain Reaction" だったりすると思うし、(リスナーが一回り、二回りと世代交代した)今だからこそPagerを聴いて欲しいという気持ちもあったんで」

 ベスト盤を出すに当って、それをキャリアの節目、いわばアニバーサリー的なものと促えるのではなく、あくまでも“出す意味のある時だから”リリースする、という彼のスタンスはこれまでと何ら変るところはない。つまり、今がそのタイミングだ、という事だ。Nitro Microphone Undergroundや妄想族といったグループも“Pagerに影響された”と公言しているではないか。
 「選曲的な構想は大体決めてたんですけど、やっぱり“ベスト”なので周りのクルーにもアンケートを取って、彼等の意見も取り入れたんですね。あとは奇数曲と偶数曲で何となく割れちゃってるところもあって。まさにサイコロ的なんですけど(笑)」

 因みにPagerのマテリアルは、"Microphone Pager"、"Don't Turn Off Off Your Light"(ストレッチ・アームストロング・リミックスの方)と続き、U.F.O監修のコンピ『Multidirection』で録り下ろしたソロ曲、"真ッ黒ニナルマデ" から "Street Life"、"Deliverly"、そしてMaki & Taiki名義のE.P.に収録された名曲 "バスドラ発〜スネア行き" ときて、再びPagerの "一方通行" へと流れる。この93年〜95年の録音群に“熱いモノが込み上げてくる”同世代の人もさぞかし多い事だろう。日本語ラップの“改正”をうたい、その後のスタンダードとなるシリアスでハードコアな“かっこいいビートとラップ”を伝えたMicrophone Pager。驚くべきことに彼等は今だかつて、解散を表明した事はない。

 アルバム(本作)の後半は、自身のレーベル“Incredible”を立ち上げてから後の代表曲で固められているのだが、"Han-Tome(Boa-Viagem Remix)" から、歴史に残る大作『Pan Rhythm : Flight No.11154』に収録された3曲、"Pan Rhythm"、"Beat Stalker"、"Hip Hop Band"、そしてラストにUzi、Deli、Q、Bigzam、Tokona-X、Gore-Texをフィーチュアした "Chain Reaction" とLunch Time Speax、Kashi Da Handsomeとの "All Star"(『Harlem Ver. 2.0』が初出)というマイク・リレー物を持ってきた辺りも、意味深である。つまりこれはPagerの子供達とのセッション、なのだから。こうして振り返ってみると、Muroの歩みに重なっていることがよく判る筈。最後に一言。「マチガイナイ」というフレーズを最初に流行らせたのは、あのピン芸人=ナガイ何某ではない。ノー・ダウト!


""Back II Back"
Muro
[Cutting Edge / CTCR-14305]


Discography
"Microphone Pager"
Microphone Pager
[Next Level / NLCD-015]
"Don't Turn Off Your Light"
Microphone Pager
[File / 25FR027D]
"Dai San Danraku 97 Page"
Muro
[Spellbound / SD.7001]
"K.M.W.(King Most Wanted)"
Muro
[Toy's Factory / TFCC-88218]
"Pan Rhythm:Flight No.11154"
Muro
[Toy's Factory / TFCC-88233]
"Chain Reaction"
Muro
[Toy's Factory / TFCC-86119]
""Sweeeet Baaad A*s Encounter" V.A.
[Toy's Factory / TFCC-88246]