どのショーやダンスにもメジャーなスポンサーがつくようになって、その模様はアーティストのインタビュー入りで、人気のREやHype TVなどケーブルテレビ、またはTVJやCVMのゴールデンタイムの番組でも放映される。ジャマイカはキングストンを中心に、年末年始、そんなビッグなステージ・ショーやダンスが毎晩続く。

 「スティング」は20年選手のバッドマン・ショー。バッドマニズム総決算のショーで、他のショーと一線を画す特異さで、いつも何かが起こるショー。有名なところでは1990年のシャバ対忍者、1991年のスーパー・キャット。「スティング」、歴史ですよね。1994年、ガーネット・シルクが亡くなった年のアンフォゲッタブルなショー、2002年は忍者がバッドボーイ・ポリスのアダムスを呼び出して湧かした年。

 年末年始は多くのビッグ・ショーがあり、外タレが出る「Hot Shot」などを除けば、ショーの入場料はJ$800くらい(約1,600円)が平均的。その中で「スティング」は、当日チケットがJ$1,500(約3,000円)と高く、その割には外タレなし、目玉なし、クラッシュなし、だから今年の「スティング」への期待度は高くはなかったはず。これが、フタを開けてみれば会場ジャムワールドは記録的な大入りで、3万5千人入りという説もあり。スポンサーのマグナム(精力ドリンクであるらしい)は不人気で、半額にしても売れなかったようだけど。

 エレファント・マンの登場で、「スティング」会場は花火大会ほどのファイアワークス合戦。他のショーでも多少の花火は上がったけど、「スティング」のエリは凄かった。こういう演出を観客がすすんでやってくれるのはジャマイカのいいところよね。爆竹じゃなくて、花火の時代になってきたよ。

 ヤードマンのアイドル、ヴァイブス・カーテル現る。日増しに強くなるカーテル人気、さらにこの「スティング」会場、ジャムワールドは、カーテルの地元、ポートモア。ステージのフロントラインには、カーテルの取り巻きがひしめいている。カーテル、今夜もバッド。「これは『ハイネケン・スタータイム』じゃねえぜ、『ギネス・ワータイム』だ!」(注:「ハイネケン・スタータイム」は人気のシリーズものオールディーズ・ショー。黒ビール、ギネスは男の飲み物さ)。そしていきなり忍者を煽る。しかも、かなりグサっとくる忍者の悪口入りで煽りまくる。Up 2 Di Timeを合言葉にDJとなって数年、ブレイクしたのは2003年、でも彼にはポートモアという地盤がある。

 しばしの沈黙のあと、忍者男登場。今回は卒業式の恰好、これもウケる。毎回毎回愉しませてくれる我らのミスター・スティング。なのに会場からはボトルが投げられる。カーテルの取り巻きからのボトル攻めかと思われるが。「ミスター・スティング」対「ミスター・スティング会場」の対決のはじまり。プロモーターの筋書きにもなかった「スティング」名物、クラッシュが、今まさにはじまろうと、観客がその体制に入ったとき、ステージでは信じられない光景が。

 カーテルと忍者が押し合いの挙句、カーテルの取り巻きと共に殴り合いの喧嘩がはじまったのである。DJはすぐに何人ものセキュリティに取り押さえられ、引き離されたが、殴ったのはカーテル、怪我をしたのは忍者。先に手を出したのもカーテルと、カーテルの仲間。怒った忍者、「カーテルとボウンティの奴ら、殺してやる」の捨て台詞。

 「スティング」といえばハードコア。Lick Dem Head。Shotta Ting。ラフでウィキッド。ガントークにスラックネス。会場には救急車と共に護送車が待機していて、護送車が毎年使われているというからすごい。アームスハウスなショーなのだ。"Almshouse" は英語で、辞書によると「救貧院」とあるが、パトワでは、どうしようもなく馬鹿馬鹿しいこと、理不尽なこと、ネガティヴにパサパサしていること、といった意味合い。格闘技じゃないんだからさ、暴力じゃなくてリリックで戦ってよ。

 その後ビーニ・マンが、ダンサー、ジョン・ハイプと充実したステージを見せてヴァイブスを立て直した。ショーはうまくリセットされるかに見えたが、MCからは信じられない言葉が。「ボウンティ・キラーは出演しません」。そりゃあ暴動にもなるよね。1,500ドルよ1,500ドル。「スティング」の次の日に行われた「イーストフェスト」(モーガン・ヘリテイジ主催のショー)は、入場料がJ$600。1,500ドルなんて、「イーストフェスト」だったら二人で行ってまだジャークチキンが食べられる値段じゃないか。

 日は昇り始め、だんだん明るくなる中で、諦めきれないダンスホール・ファンが難民状態。プロモーターからの説明は一切なし。

 こんな、わさわさパサパサ、アームスハウスな「スティング」の中にも、良心的なステージは多くあった。先述のエレファント・マン、ビーニ・マンの他にも、特筆に価するクイーン・ポーラの女性DJクラッシュ、チャック・フェンダーにリッチー・スパイス、アサシン。そして8年ぶりのサンチェス!

 その後、各メディアは「スティング」の騒動を大きく取り上げ、巷ではそれらしき噂が蔓延、一時はカーテル死亡説まで。プロモーターのシュープリーム・プロは正式に記者会見をし、「スティングは今回で終焉とする方向で考えている」と発表。同時にヴァイブス・カーテルが謝罪。たった2〜3日の間に忍者男と仲直りしてツーショット。

 ヴァイブス・カーテルとその仲間3人、忍者男がステージ上の暴力行為で罪に問われ、1月中旬裁判予定。しかし今回のアームスハウスはこれで終わらなかった。カーテルが殺人事件の重要参考人として連行されたのである。アームスハウスはまだまだ続く。

 1月上旬の時点で、カーテルは釈放、ボウンティ・キラーは当日「スティング」の会場に出向いていたことを表明した。


Reiko NAGASE SMITH
(協力/アイランドツアー:
http://www.nabra.co.jp/island/


「Ricoのジャマイカ、Art Life」http://www.ricoart.com

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