刻一刻と混迷の色を深めてゆくジャパニーズ・ヒップホップ・シーン。その中で決してくすぶる事なく、ダイヤの如く眩い才能を放ち続ける男が一人。ご存知、Mr.フダツキー。自身のレーベル、Baby Mario Productionを設立し、文字通り一国一城の主となった彼は、ここに自らオーガナイズ/プロデュースしたキャリアの正念場となる3rdアルバムを投げ掛けてきた。タイトルは『Diamond』。それはつまり……。
 「磨けば光る宝の“石”、でありオレの“意志”でもあるんですけど。今、カットされてダイヤとして世に出てるものなんて地球全体で見るとスゲえ少ない確率で発掘されたものでしょ? それは本当、運なんだなと思うし。人間って誰でも磨けば光るモノを持ってる筈で、オレの場合はそれがラップで。でも、如何に才能があっても、それに寄りかかってるだけじゃ芽が出ないと言うか。そういうことですね。よく“Dabo君イケてるねー、調子いいねー”って言われるけど、オレだって最初からラップが上手かったワケじゃないし。“イケてないワ、俺”って悶々としてる奴の気持ちはスゲえ良く分るんですよ。オレだって、そこら辺に用もなく座り込んでた石コロみたいな奴だったし、ラップ始めてからデビューするまで長かったからフラストレーションも溜まってたしね。あと人間の“意志”って言うののは地球上で一番固い、とオレは思ってるから。“Diamond”って曲はそういうメッセージ・ソングですね。アルバム・タイトルとして使ったのは、全曲録り終わって並べてみてから、“ウン、これでいこう!”って感じで、特に最初から考えていた訳でもなく。まあ、使ってもいいかなぁ、くらいで」

 その“ダイヤモンド・プロジェクト”に参加したトラック・メイカーは、D.O.I.、DJ Hazime、DJ Yakko (Aquarius)、DJ Watarai、Macka-Chin、といった前2作でもお馴染の最強布陣に、先行カット曲「Clap Ya Hands」を手掛けた327(Mr. Soultrain=Ryuと、エミネム、ドレーと仕事をしていたサウンドマスター=Tommy Coster)、そして外仕事もバリバリこなしている餓鬼レンジャーのGPに、Revolver Flavorのリミックス、Sphere Of Influenceのフィーチャリング楽曲で組んだ過去こそあれ、アルバムへの参加は初となるO-Townのフランク・ミューラーとBL。またゲスト・アーティストとしては、Fire-BからChozen Lee、妄走続から般若、Maguma MC'sからRyuzo、ミックスド・タッグ・パートナーとしても毎度毎度相性の良いPushim、にデフ・ジャム・ジャパンよりAi。

 「ビートに関しては、もう直感。考え出すとキリないじゃないですか。ザッと聴いて、“良いじゃん! ラップしてえな!”って感じて、で次にトピックが浮かんできたものを曲にする。直感優先ですね、完全に。Baby Mario Productionを立ち上げて、今は楽曲の権利は全部オレが持ってるワケなんだけど、レコーディングに関してはこれまでと何ら変わりなくて。ただ、やっぱ気構えだけは凄く違った。自分の会社だし、相当カネも突っ込んでるし、何かあると全部オレに返ってくるワケでしょ。でも、オレはこれ(ラップ)しかないし、たとえ現役を退く時が来てもやってけるなって考えもあるから、ヤリ甲斐は凄く感じますね。やっぱヒップホップをやっていくんなら、そのトップにある実権握ってる奴がヒップホップを分ってないと意味ないじゃないスか。その上で右肩上がりで成長していけば言うことないな、って。まあBaby Marioに関しては、若いラッパーも出していきたいし、あとスタッフ的な人材もこれから集めてこうと思ってるんで、歌ってくれる、ヤル気ある奴は常に募集中、ですね」

 そんなラップ起業家、Daboの持つ一等デカい“札”は、言うまでもなく“モーレツなラップのウマさ”である。どんなトピックもカッコ良く聴かせる上手さ、そしてその聴かせ方の多彩さ(正にプリズム!)という意味での旨さ。それはやはり“格別”のモノだ。“ビートだけいいアルバム”も少なくない昨今、このアルバムに関してはビート云々以前に「圧倒的なまでのラップ・アルバム」として楽しむことが出来るのだから。そう、生かすも殺すも自分次第だってことを彼はよく分っている。まあ、超一流のフグ職人が決して肝をツブす筈もない、って話に等しいが…。それにしても、この三つ目の大皿に盛られた“新作料理”(つまり、新趣向のラップ、フロウ、トピック)の数々の何と豪華かつFreshなことよ! 気になって仕方ないヒトは、自分の耳で判断して欲しい。でも、CDショップの試聴機には既に“行列”が出来てると思うけど…。

"Diamond"
Dabo
[Baby Mario / UICJ-1017]