Painted by Yasuo Yagi / Text by Noboru Yamana





 渋谷の東急本店前にあるミリバールという店に、八木康夫の描いたオーガスタス・パブロの絵がある。1979年、オーディオ・メーカーのトリオが持っていたレコード会社から、トロージャンのアルバムが何枚かシリーズで発売された中の一枚。その原画だ。つまり、イギリス盤と同じジャケットで出たものもあれば、「あんまりだ」と、日本で制作されたジャケットもあったのである。そのLPは『アイタル・ダブ』。だから、黄緑色の、英盤のイケてないイラストを知っていれば、なるほど、と頷けるだろう。酒を飲みながら、カウンターから振り返ると、若いパブロと目が合う。

 その絵が店主に買い取られる前から、八木ジャケで『アイタル・ダブ』をCD化しないか、と、いくつかのレコード会社にプレゼンしたことがあった。この四半世紀、トロージャンのカタログはズタズタに切り売りされて、日本ではいくつかのインディが数枚ずつCDを出したり、英本国では、決して褒められたものではないコンピばかりがリリースされたりした。少し前から、確かアイアン・メイデンだかのオフィスが「全て」を買い取ったという噂があったが、リイシュー体制もとたんにしっかりしてきた気がする。本誌原稿のために「アイアン・メイデン」とキーボードを叩くとは、さっきまで自分でも思わなかった。当該グループを馬鹿にする気など、サラサラない。イギリスでライヴを見たことすらあるのだ。
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 細野晴臣〜矢野顕子〜夕焼け楽団と立て続けにジャケットを担当し、F・ザッパやニューオーリンズのR&Bの原稿なども書いていた当時の八木さん。僕がその絵を好きなのは、パブロだから、ではなくて、彼の「筆致」がとにかく若々しいから、パブロを描きたいという気持ちが伝わるからだ。
 そして、とてつもない時間が過ぎていく。