ここ数年、密かにCD化が進行中のハリー・ムーディー率いるムーディスクだが、間もなく0152 Records選曲による編集盤『Change The Tide -Mudie's Hi-Fi Show Case-』がムーディスクからリリースされる。そこでムーディスクの摩訶不思議な魅力を再確認しておこう。

 プロデューサー、ハリー・ムーディーの趣味がいっぱい詰まったムーディスク・レーベル。1937年にジャマイカのスパニッシュ・タウンで生まれ17歳でカウント・オジーの「Babylon Gone」を初録音。しばらくのブランク後、70年代初めに本格的なリリースを開始する。ダイナミック・スタジオのミュージシャンをムーディーズ・オールスターズとして起用したが、その音はレゲエの一般的なイメージを覆す独創的なものだった。

当時としては画期的だったストリングスの導入、ピアノを大きくフィーチャーした曲。そのようなメロウ・サウンドをバックにしたジョン・ホルト「It May Sound Silly」はヨーロッパを中心に支持された。また流麗でスタイリッシュなサウンドにとどまらず、キング・タビーの名作のひとつ『In Dub ConferenceE Vol.1』や、I・ロイを始めとしたDeeJayものにも名曲が多い。

一体、レゲエというミュージック全般に対し各人が抱く解釈が「いかなるものか?」は計り知れない。けれどことムーディスクに関してはそんな形容すら煩わしくも感じてしまうファンタスティックなサムシングが溢れている。特徴的なサウンドは美しくもせつないヨーロピアンテイストな甘いメロディーだと知られているが、もう一方で思わず腰を浮かし踊り出したくなる様な弾んだベースラインの心地良さが最高だ。

その広くラウンジ・ミュージック的だと語られることの多いこのレーベルの側面とオリジナリティ溢れる「ロッカーズ!」と叫び出したくなる様なルーディーなリディムを生み出す主要ベースプレイヤー、ジャッキー・ジャクソン。そんなステッパー・リズムとの対比は実に聴いていて痺れるところだ。つまりカッコ良すぎて「ヤバイ!」一度、その味を知り「ハマるとしばらく抜け出せない!」とか言いたくなる。

そしてもちろん温暖な風土から届くくつろいだテイストが、柔らかな情緒を約束してくれることは言うまでもないが、よりこのレーベルを知りたくて過去のカタログや音楽性について追求したければ、レーベル・オーナーであるハリー・ムーディー自身についてより深く知らないと始まらない。それくらい彼のフィロソフィーには敬意を表したくなる。ムーディスク=ハリー・ムーディーという1人の男のアカデミズムだと解釈するのが正しいのか? 何よりも彼が曲げずに貫く自分の好きな音を追求する姿勢が素晴らしい。

 思えば80年代後半、オーバーヒート社がリヴィングレジェンドなピアニスト、グラッドストーン・アンダーソンの1972年の名作『It May Sound Silly』を『カリビアン・サンセット』と題し初めて日本に紹介してから早、十数年。間もなくリリースされる予定の0152レコーズ選曲によるシングル曲満載のコンピレーション盤『Change The Tide -Mudie's Hi-Fi Show Case-』によって、また何度目かに訪れる新たな若いリスナーに広く聴かれる機会はとても喜ばしいことでもあり、それはまたハリー・ムーディーの誠実な人柄無くしてはなし得なかった、と言えるのかもしれない。


(1) "Mudies Mood"
Rhythm Rulers


(2) "It May Sound Silly"
Gladstone Anderson & Mudies All Stars

(3) "In Dub ConfrenceVol. 1"
Harry Mudie & King Tubby's

(4) "Meet Dennis Walks"
Dennis Walks

(5) "Change The Tide"
V.A.