お寒うございます。なんでも11月は、ヒップホップ月間だったらしく、新旧問わずイヴェントが多かったです。なかでも、オールド・スクーラー達のアニヴァーサリーが多く、普段出向かないアップ・タウンに入り浸りの筆者でありました。しかし、どれも20周年、30周年で、日本でもテクニクスのSL-1200の30周年を祝っていたというのには、時の流れを感じます?

●今月のリリース・パーティ1
 このところ、多くのヒップホップに関する本の出版ラッシュみたいなモノが起きているが、その中の一つ、アイヴァー・ミラーなるNY大学の教授が出した『Aerosol Kingdom』の出版を記念して、ライターからリー、フェイズ2、デイズ、ピンク、IGTという80年代に遡る初のエアロソール専門誌の編集人、シュミダラプ、『ワイルド・スタイル』一本しか作っていないのに、いつまでもフィルム・メイカーを名乗るチャールズ・エイハーンなどを迎えて、シンポジウムが11/22、23の2日間に渡って行われた。

タイトルは、イヴェントでもパネルに参加したヴァルカンのコンセプトで、基本的には70年代から80年代に盛んだったエアロソールの作品の数々の写真と、そのルーツに迫るという内容の本となった。パネル・ディスカッションでは、アメリカ中から集まったNYUに在学するお坊ちゃまとお嬢さま達が、普段見れないゲットーのアーティストを好奇心の目で見ているという感は隠せなかったが、そのムードに腹を立てていたフェイズが、“グラフィティ”という言葉を説明する事によって、そういったブルジョア的な連中に現実を突きつけて痛快だった。会場に居たフューチュラもこれに加勢し、著者もちょっと困惑気味であった。ざまあみろ?

●今月のリリース・パーティ2
 その『ワイルド・スタイル』一本を引っさげて、どういう訳か世界でリスペクトされているチャールズ・エイハーンの出版した忌々しいタイトルの本のリリース・パーティが、どういう訳か、ブロンクスのど真ん中で、伝説のDJ、AJの企画で開かれた。本は確かに普段見れない写真や珍しいコメントが載せられているが、いまだそういった“金にならなかった”時代の人々の功績で、食いつないでいる彼の態度に批判の声が多く、ボイコットもあったが、会場にはクール・ハーク、デズ、フロスティ・フリーズなど伝説の人々が集まった。ニュースで取り上げておいてこう言うのもなんだが、本は買わないで、万引きするか立ち読みすることをお勧めする?

●今月のアニヴァーサリー1
 ハーレムのラップ・グループのパイオニアであるクラッシュ・クルーの25周年記念の催しが11/24、ダウン・タウンのクラブ、SOBで行われた。3年前に他界したオリジナルDJのダリルC(RIP)以外のオリジナル・メンバーが集い、ヒット曲の数々を披露した。残念ながらダリルCの代わりにDJを務めた若手DJ、スプリームの経験不足がたたり、何度も曲が中断されるというショウだったが、彼らがアクシデントに対応する機転の利き具合は、現在のラッパー達には見れない玄人のワザだった。ゲストに他界されたと噂されていたデイナ・デーン、ダギー・フレッシュ、コールド・クラッシュのカズ、グランド・ウィザード・シオドロを含むファンタスティック5、メリー・メル、ラヒームなどのライヴも圧巻だった。特に殆どアカペラで出演したデイナ・デーンは、相変わらずのエンターテイナー振りで、彼を知らない世代にも新鮮だった様だ。会場には、ビートナッツのJUJU、イーヴルDなどがリスペクトの念を表していて、和やかなパーティとなっていた?

●今月のミックス・テープ
 彼自身も30周年に近いグランド・ウィザード・シオドロのミックスCDが、自身のレーベル、GWTからリリースされた。『Legend Of The Lost Crates』と名付けられたこのCDだが、彼自身のリミックスや彼の擁する若手アーティストの曲などを含んだ内容で、全てライヴで録音されたというミックスCDの本来の姿は、これだという意気込みが感じられる。現代のミックスCDは曲を並べただけで、ミックスされていないというDJ達の怠惰な態度が腹立たしい。そういう貴兄にはこれを薦めたい?

●今月の写真
 そのシンポジウムのメンツ
(Photo by Silent Assassin)


沼田 充司
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DJ/プロデューサー。
レーベル<ブダフェスト>主宰。
雑誌『ブラスト』でも執筆中。
ニューヨーク在住。
(Photo by Tiger)