ジャマイカ島は4年振りにオレンジとグリーンに敏感な、一般選挙のシーズンを迎えている。ある一部の地区だけではあるけれど、さらに危険度が増すといわれるこの時期は、どちらにも肩入れしない一般市民にとっては、それぞれ政党のカラーであるオレンジ(国民党)とグリーン(労働党)を着られないシーズンなのだ。Fi Real(マジで)。

 選挙キャンペーン中は、ダンスやステージ・ショーなどエンターテイメントも少なくなり、折りしも9月、10月、11月は雨の多いシーズンで今年は特に雨が多いから、ここのところちょっとダルい日々を過ごしているのだが、いつもより緊迫感はある。ありすぎ。

 キングストンのインナーシティ地区(最近はゲットーのことを上品にこう呼称する)やカントリーサイドのところどころに、オレンジかグリーンの目立つ地区がある。各コーナーにオレンジ(または緑)の旗がひるがえり、塀や看板がオレンジ(または緑)に塗られ、住人はオレンジ(または緑)で全身コーディネート。政治家の顔プリント入りのTシャツを着ている人もいる。間違っても敵方政党の色は身に付けないどころか、家の中にそんな色の小物が存在しても落ち着かないらしい。

 ラスタカラー・ステッカーのグリーンの部分を、黒く塗りつぶして貼っていたラスタファリアンを、オレンジ地区で見かけた。そこまでするか。とにかくオレンジと緑の生地がよく売れること。レゲエボーイズ・カラー以来の色洪水。しかし国民党のシンボル・カラーは一体いつから、赤からオレンジに変わったんだろう。

 選挙キャンペーン中はいつにも増して人々の発火度が高くなる空気に包まれるので、注意が必要だ。注意すべきなのは色だけではない。各政党のしるしであるグーとチョキのサインもこの時期はタブーなので、記念撮影でピースサインもできない。キングストンの国立競技場あたりはオレンジ地区なので、ボブ・マーリー像上でいつものように陽気にピースサインなど出したら悪意の野次が飛ぶ。

 労働党のシンボル・マークはベル。鈴をつけたわが家の猫は「レイバライツ(労働党員)」とよばれてしまい、しばらく鈴は外すべきかと飼い主は悩んでいる。日本の夏の風物、風鈴などは、ジャマイカみやげには適していないかも。

 今回の国民党の合言葉は「ログ・オン」で、労働党の合言葉は「ブリード・アップ」=産めよ増やせよといった感じかな。これは72歳の党首シアガ氏に子供が生まれた(!)のが語源だが、首相PJにバティマンの噂があることも考えての合言葉らしい。

 ジャマイカのこと、政党応援ソングはもちろん存在する。これがよくできたもので、思わずのせられて踊ってしまうようなチューンだったりする。以前はDJの替え歌が使われたものだが、今シーズンはDJの際立ったキャンペーン参加は見られず。政党カラーに身を包み、同じ色を着込んだフォロワーと共に集合体の中心となっているDJもいると思えば、この時期海外に行ってしまう大物もいる。

 今回の選挙は国民党と労働党の二大政党、第三の政党となるブルー&灯台がシンボルのNDM、そして話題のホーフトン女史が率いる新党UPPに黄色のラスタファリアンの政党が議席を争っての合戦となる。

 一番のドラマは7年前にシアガ氏の悪口を捨てゼリフに労働党を離れ、NDMを立ち上げたゴールディング氏の労働党出戻り騒動。それも、決して戻らぬと表明をした舌の根も乾かぬうちの心変わりである。これには島中が驚いた。

 前回の選挙がとても平和に終わったので、今回は平和を期待する気持ちと懐疑的な気持ちとが入り混じる。ジョージ・ヌックスやナディーン・サザランド、トニー・レベルやゴーストが共同参加のピース・チューンと、平和な選挙を訴える選挙管理委員会のメッセージに癒されるのも束の間、各政党のテレビ・コマーシャルや新聞広告はとにかく敵方の党首をコキおろすような内容でウィキッド極まりない。CFは毎日のように見苦しいバッド・マインドものが放映されたかと思うと、今度は「うちの政党はいいひとばかり」イメージ作戦に出たらしい。疲れる。"Mi Nah Vote" と言いたくなる気持ちもわかる。奇しくも選挙の日は、日本でジーコ・ジャパンとレゲエボーイズ戦が行われる10月16日。

 選挙と雨季が過ぎたらそれまでのダルさを盛り返すかのように、今年のクリスマス、及び年末年始のイベントは盛り上がるはず。「Sting」に「East Fest」、「Over Loaded」に「Reloaded」など毎年恒例のダンスに今年こそ! アイランドではこの時期「レゲエ三昧ツアー」を催行します。Gimmi The Light !