
「“Ghetto Dictionary”というコンセプトを立てたのは随分前で、本当なら2年前にリリースする予定だった。単なる楽曲の寄せ集めじゃなくて、アルバムとして過去から現在、そして未来までをも詰め込んだ内容にしようと考えていたんだ、フン」
「そうだ、2枚だ。前作から3年も経って、曲が溜まっていたし、アルバム用に録った曲もあるしな。だから、テーマを分けて2枚にすることにした。そうだな、確かにヒット曲も多いが、そればかりじゃない。ヒット曲でなくても、アルバムとして考えれば、入れておくべき曲はある。“ヒット曲が良い音楽”ということでなく、“正しいコトを伝えているのが良い音楽”だと思っているからな。それにヒット曲だけを売っていたら、アーティストもレコード会社も育たんよ、レゲエは拡がらない。だから、あえてハズしたヒット曲もあるし、入れた曲もある。アルバムのヴァイブスは問題ないさ、フン」
「ゲットーには様々な面がある。『The Aat Of War』はその中の貧困、暴力、闘いといった面を表わした楽曲を集めている。あと、ゲットーには様々な解決出来ない謎が存在している。例えば、同じゲットー出身でも、ギャングスターや犯罪者になる者がいたり、警官や医者、弁護士になる者がいたりする。そうしたゲットーの不可解なこと、解決できない問題を歌った楽曲を『The
Mystery』に集めている。ゲットーの持つ二面性を表わしているものだ。この2枚にはゲットーのAからZまでが語られている。そう、まさに“Ghetto
Dictionary”だ。この作品を通じて、ジャマイカのゲットーの状況を広く伝えたいし、俺自身が何処から出てきたのか、そしてゆえに何を背負い、何を歌わなければならないのかが分かるハズだ。日本の連中にもそのヴァイブスはしっかりと伝わるハズだ、フン」
「ああ、いろんなプロデューサーと演っているな。別に誰がどうのこうのというのはない。無名だろうと、有名だろうと、まずは話を聞き、トラックを聴く。それ次第だ。ただ、無名な連中にとっては俺と演ることで、名前を売る機会にもなるだろうな。最近では、T.O.K.の(プロデューサー)リチャード・ブラウニーがそういった一人だ。無名な連中と演ってうまく機能しないこともあるけど、まぁ、それは仕方ない。さすがにデイヴ・ケリーとかで失敗すると凹むけどな、フン」
「ヒップホップとかで演ることを色々言う奴が居るが、要はそれでもそれがダンスホールであれば良いんだ。つまり、俺なら、俺のハードコアなダンスホールとしてのスタイルがそれで失われなければ良いんだ。それでヒップホップのファンも、ダンスホールのファンも両方が楽しめれば良いのさ。そうさ、ノー・ダウトとの
"Hey Baby" だって同じことさ。アレでバウンティ・キラーをより広いマーケットに知らしめられたわけだし、ジャマイカじゃあアレをダンスホールとしてみんな楽しんでいるしな、フン」
「そうだな、確かにトップに立ってから長いな。プレッシャー? いや、それはない。面倒なコトはあるがな。でも、いつもファンがそうやって俺に期待してくれていることは力になっている。俺自身のクリエイティヴィティは枯れることはない。目の前の現実を見ていれば、それは決して失われることはない。なぜなら俺はゲットーの現実、ジャマイカの社会を見続けているからな。ファンが俺に期待をして、俺の歌を求めてくれるのもそうしたリアリティを歌い続けているからだ。何かが起これば、俺はそれについて歌う、貧しき民の代表としてな。そして、そのことを批判する奴が居る、そしたら、それに対して、俺はまた歌う。そういう奴等が居るだけ、俺の歌は求められ、聴かれる機会も生まれてくる。ビーニー・マンに対してもそうだ。俺の出番を作ってくれているに過ぎない。でも、結局は現実を歌うことに優ることはないのさ、リアルであり続けるだけなのさ、フン」
「今後? 考えたこともないな。あのゲットーを考えれば、現在の自分は想像出来なかったほど“遠いところ”まで来たと思っている。これから先に何が起こるかなんか分からない。ゲットーで暮らした者には、将来に何か目標を置いて、それに向かって生きるなんて、そんな生き方は…、フン、ありえない」 |