1999年12月号

Mix Tape

1. DJ Takuya-Tropicana / T-Tri-Wu Inferno 1 (Puresand West)

マグマ(MCズ)のライヴDJを経て、現在はスフィア・オブ・インフルエンスらと共にC.I.Gを組織する若手要注意クラブDJ=タクヤ・トロピカーナが贈るブラニュー・シット物ヒップホップ、R&Bミックス・テープ・シリーズの第一弾。現場感覚を重視しつつ、クラブへ行けない年齢層にも分かり易い、その選曲センスとスムースなミックスは60分フォーマットを物足りなく感じさせない位にHot。しかも相棒スフィアの“デフ・ジャム”デビュー曲「Bounce」を逸早くチェック出来る、という嬉しい内容(フリースタイルも収録)。

Album

2. Eminem / The Eminem Show
(ユニバーサル)

昨年のD-12でのアルバムに続く新作は約2年ぶりとなる単独名義での3作目。タイトル通り、その生き様を“ショウ”に例え、言いたい放題、やりたい放題の今作も、どこを切ってもエミネムそのものの毒々ワールド。例のD-12のアルバムでも披露したプロデュース・ワーク(ジェイ・Zとの共演曲もそうだった…)は更に進化。ボス=ドクター・ドレーの制作曲は減少(つまりは、任せているという事)しているが問題ナシ。ネイド・ドッグ、D-12、実娘ヘンリー・ジェイドら客演者の配後にも注目。今回もモンスター・ヒットとなる事でしょう…。

3. N.E.R.D. / In Search Of… (東芝EMI)

多忙を極めるプロデューサー・チーム(ネリーの新曲も担当)ネプチューンが核となるナードのアルバム新着盤。実はインターナショナル(本国US以外)で先行発売されていた同作は彼らの意向により、大胆にもフル・バンド・トラックで録り直されている。P.Vでも伺えたように、ハイスクールの端に置けないオタク(結成もその当時)を地でゆく彼らだが、この開放感とのアンビバレンツな魅力が満載の本盤は“新展開”として楽しむに十分だ。ファレルのあのオリジナルな歌唱も冴えまくっている。カッコイイです。

4. Nauty By Nature / Iicons
(ビクター)

“R&Bプロデューサー”として独立したケイ・ジーが脱け、2人組となったノーティの約3年ぶりの通算5作目。ニュー・スタイルとして登場した彼らも今ではすっかりヴェテランの域にあり、ここでもノーティのイメージ=パーティー・チューンとハードなゲットー・アンセムの同居は見事な位こちら側の期待通りに守られている。サウンド面では同郷=ニュージャージー出身の売れっ子プロデューサー=オールスターを中心に、共演経験もあるビートマイナーズにDJツインズ、そしてアトランタの大物=リル・ジョンと多彩になり、時代のバウンス・ビートも乗りこなす。ゲストはメソッドマン/レッドマンにピンク、カール・トーマス、クイーン・ラティファ(!)等々。

5. Wyclif Jean / Masquerade(ソニー)

ローリン・ヒルの『アンプラグド・ライブ』盤が絶賛発売中の折、フージーズのリーダー(だった?)ワイクリフの3rdソロが到着。最近ではシティ・ハイ等の売り出しで忙しかった(ミック・ジャガーのソロ作にも参加)彼だが、尊敬する父の死に突き動かされるように、たった2ヶ月半で完成させたという本作は、ワールド・ミュージック的文脈でも高い評価を受けた前2作でのアプローチとは異なり、本人曰く「94〜95年辺りのヒップホップに戻った」という原点的なモノに。シティ・ハイのクローデッドや、往年のポップ・スター=トム・ジョーンズに、M.O.Pらも顔を見せる本作はやはりワイクリフの懐の深さを見つけるソウルフルな一枚に。
6. Afu-Ra / Lifeforce Radio
(ビクター)

あのDJプレミアをして「ここ5〜6年で登場したMCの中では群を抜くリリシスト」というアフーラの2nd。その明瞭な語り口はより鋭さを増し、ハードなラップ・ゲームを勝ち抜いていく覚悟さえ感じさせる。“自分がラジオ・ステーションを持ってたら、こんな選曲がしたい”という妄想を形にした本作はその言葉通り音楽性の幅広さを示す構成となり得ている。彼自身のアイドル=ビッグ・ダディ・ケインとカート・カザールのビートで競演するトラックから、ティーナ・マリーの歌声が絡みつくゴージャス・チューン、制作責任者=プリモやRZA、イージー・モービーの制作曲M.O.Pとの再共演曲まで、濃さは保証付き。ニューアンセム“Hip Hop”でアがれ!

7. V.A. / DJ Spinna Presents : Beyond Real Experience(クラウン)

あのウルトラ・ビジーなスピナが自身のユニット=ジグ・マスタズに続き、外仕事を控え制作に集中した、という『ビヨンド・リアル』コンピ第2弾.。ファミリーのMC/グループ=アキル、ダイナス、ハー・ジェット・ブラック、オールド・ワールド・ディスオーダー、そしてジグ・マスタズの新録がズラリと並び、グールーやシスター・コンプレックス、サダトXといったお馴染の深いゲストMCの存在も気になるが、各曲がスピナのまた次のレベルへ突入したトラック群と一体になった瞬間こそが見物。P.U.T.Sやケン・スポーツのリミックス、そして日本代表=スイケンの録り下ろし(これがまた宇宙的)も文句ナシのクオリティ!
8. MURO / King Of Diggin Presents /
Sweeeet Baaad A*s Encounter
(トイズファクトリー)

ご存知“渋谷のKing”がマーリィ・マールの『In Contorol』的構想の具現化に遂に成功。中田亮(オーサカ=モノレール)、デヴ・ラージ、スイケン、スウォード、マッカチン、ゴア・テックス、オースミ、カシ・ダ・ハンサム、ランチ・タイム・スピークス、GKマーヤン、Boo、ゴーリキ & ジョー・チョーといった連戦連勝マイカー勢の、“Kingとの相性”を示し、インストではDJシモーネ & DJツッチン、DJヴィブラムらが構成力の高いトラック物をKingと共謀する…という正にKing=ムロの王道たる快心作。全曲シングル・カット可能の凄さ!因みにジャケの男は伝説の男=Lee Qだったりする…。

9. S-Word / One Piece
(デフジャム ジャパン)

東京Nitroファミリーの“赤い彗星”ことスウォードの衝撃のデビュー・アルバム。“自分のスタイルを一度壊してみたかった”という「Cross Ova(斬)」、現在ヘヴィローテ中のクリスティーナ・ミリアンとの「The Answer」、「マダマダ-最善を尽くせ」c/w「Ultimate Rare」といったエゴむき出しのビッグチューンが不思議なくらいの整合感で、ストーリーを型作るが如く収まっている本作は、“ニトロのスウォード”を期待する向きも、また新感覚の日本語ラップ・アルバムを探し求めている人も、と全てを納得させられる“日本発”を強く認識させられる力作に。制作はマッカチン、ワタライ、ムロ、D.O.I、ヤッコ、そしてNY代表ローフィー。必聴!

10. S.P.C. / Global Trechn'
(ポニーキャニオン)

昨年の“Hiphop Royal”でのパフォーマンスも記憶に新しい札幌を代表するS.P.C.待望のフル・アルバム。メジャー・デビュー曲「Killah Killah」から、「The Becialist」、仙台代表=ハンガー(ガグル)、熊本代表=ケン・1・ロウをfeat. したスリー・ザ・ハード・ウェイ・シット「Triple Threat」といったシングル曲を中心に、地元で活躍中のクルー=スケアクロウ・エンターテイメントの面々や、シンガーのジェミニ、チェンジ・ザ・ビート・クルーのDJマナブといった北の輝かしき才能を紹介しつつ、カズマニアックの痛快なフロウと、DJセイジ、タマ各々の強力なトラックで一気に聴かせるマスター・ピース。

Singles


11. MS Cru / 帝都崩壊(P-ヴァイン)

新宿を拠点に活動していた2つのグループ=マイク・スペースとサイド・ライドを中心に発足したMCクルー。“B-Boy Park”での暴れっぷりでも脚光を浴びた彼らだが、その完全なる自給自足路線は“言うだけのことはある”もの。『Blast』誌の連載から始まった画期的ショウケース盤『Nombrewer Vol.1』への参加に続き公開されたこの5曲入りミニ・アルバムでは彼らのジャーナリスティックな視点が見え隠れするリリックや個性的なフロウがタイプの異なるトラックの中で爆発。“快感の後味の悪さ”、“満月の挽歌”の狂気等、語り尽くせない程の聴きどころ…。憶せずてに取ってみるべき。

12. HILL feat. CO-KEY / YES
(Gold Rush)

『悪名』への参加等で知られる実力派MC、本格派リリシスト=ヒル・ジ・IQ改めヒルの久々のNew E.Pは、彼とコーキ、DJサチホが新たに興こしたレーベル“ゴールド・ラッシュ・レコーズ”からの初物。より存在感の増したヒルのフロウにfeat.のコーキがガッチリと絡み、リブロ作の太いビートを際立たせているタイトル曲の他、DJサチホ制作の、あの「放火魔」のセリフ・リメイクとなる「The Arsonist」にコーキの初プロデュース作で、ヒルの詩情豊かなストーリー・テリングが光る「No Pain No Gain」と、待っただけある強力な内容に。