ある雨の週末、我らが大将ボウンティ・キラーが「プア・ピープルの代表」として、西インド大学で2時間の講演をした。大将は穏やかな口調でジャマイカの社会問題を斬り、中でもこの国の教育問題に焦点をあてた。 ジャマイカには義務教育の制度がない。ジャーナリストの友人はジャマイカの教育制度に疑問を持ち、自分の息子を学校に通わせることなく育てあげた。これは特例だとしても、この国の教育制度はどうも不公平であるような気がしてならない。


 イギリスにならったというこの国の教育制度は複雑で、住む場所と、その家庭の経済力によって子供の受ける教育が異なる。ジャマイカの子供たちは一般に、日本より1年早く小学校に入学し、共通入学試験に合格するとみなされる11歳になるまで初等教育を受ける。この試験で振り分けられ、合格すると内務省許可学校に入る資格を得て、普通教育終了試験に合格するまで職業訓練技術高校または一般高校に通う。この終了証書によって大学入学許可を得る場合もあり、就職は終了証書の成績で大きく左右される。


小学校は公立校と私立校に分かれ、経済的に豊かな家庭の子供たちは幼稚園から私立、都市部には幼稚園から高校までエレベーター式の私立学園もある。有名私立小学校は1クラスの生徒数が少なく入学の競争率も高いので、中産・上流階級の家庭では出生時に、入学手続きの予約申請をするほどだ。それほど、公立と私立では授業内容や校風、環境に違いがある。


地方には5才から15才までが同じ学校に通えるオール・エイジ・スクールという教育機関がある。オール・エイジ・スクールも公立小学校も、生徒数が多くて教師が足りないため二部制を導入している学校も多い。朝登校して昼までのクラスと、昼登校して夕方までのクラスに分けられ教師は1日中、完全週休二日制で授業時間が不足ぎみだ。公立小学校の授業料は無料だが、教科書や教材、制服は有料で、毎年9月の新学期シーズンには、保護者は経済的混乱に陥る。

 給食制度は殆どなく、保護者が毎日バス代と昼食代を子供に現金で渡すから、子だくさんの家庭は大変だ。登校手段は公共バスで、大人と同じように交通の不便さに喘いでいる。毎日のバス代や昼食代が工面できずに学校に行けなくなる子供も多い。


一方、私立校に子供を通わせる親は、車で子供を送り迎えするのが毎日の日課だ。これが午後の交通渋滞を引き起こし、親の仕事に支障をきたしても、送迎の習慣は子供の安全のため不可欠なものであるようだ。いくら中産階級といっても私立学校に車でお迎えというステータスを維持するのは、経済的にも大変だろう。


授業のカリキュラムにも疑問を感じる。聖書中心のファンダメンタリストの名残か、カリキュラムが偏っている。ジャマイカの歴史を中心に、ヨーロッパの歴史を学ぶが、本来ジャマイカ文化の源であるアフリカの歴史や文化を学ぶ機会は以外に少ない。最近ではジャマイカの主産業である観光の意識を高めようと、ツーリズムのカリキュラムが登場したが、世界地理を学ぶ機会は今だ少ない。図画工作や音楽の授業は選択科目で、こういった絵の具や楽器など教材を必要とする学科は学ぶ機会を得られない生徒もでてくる。体育も学校にプールがないので水泳の授業がなく、泳げないジャマイカ人が多い。


ジャマイカの識字率は75%といわれる。この国は想像以上の学歴社会で、前述の普通教育終了証書がなければまともな職にはつけない。地方部やゲットー地区に多い、読み書きが満足ではない大人のために、無料の教育制度ジャマール(Jamaica Movement For Adult Literacy)と称される「ジャマイカ成人教育運動」の復興に、DJボウンティ・キラーが率先して力を入れている。プア・ピープルに教育を! ボウンティのメッセージは熱い。我らが大将ボウンティ・キラー、頼りにしてるよ。
 De Pon Yu!