レゲエの歴史を語る時、ロック・ステディはスカとルーツの狭間の短い期間に咲いて散っていった花のように語られることが多いようです。しかしロック・ステディが持っていたR&Bの影響を受けた歌謡スタイルが70年代以降に消滅してしまったわけではないことは、バニー・リーやジョー・ギブスといったプロデューサーが生み出した歌物の作品を聴けばよくわかることでしょう。ジャマイカにおいても受け継がれてきたロック・ステディの流れは海を渡ってイギリスで更に大きく発展し花開くことになったのです。それがこれから紹介するラヴァーズ・ロックです。

 1975年、当時14才だった女の子、ルイザ・マークスが歌ったR&Bカバー「コート・ユー・イン・ア・ライ」(バックは本誌10月号で紹介済みのデニス・ボヴェール率いるマトゥンビ)のヒットから始まったラヴァーズ・ロック。この曲のヒット以降、主に12インチ・シングルで多くのラヴァーズ・チューンが生み出されることになったのです。

 この頃のラヴァーズ・ロックを殊更魅惑的にしているのは、ルイザ・マークスを初めジャネット・ケイなど初々しく魅力的な女性歌手や、男性女性を問わず多くのコーラス・グループの台頭。アルトン・エリスを筆頭にロック・ステディ期のベテラン歌手の充実。マトゥンビやクール・ノーツ、アズワドに繋がるミュージシャン達がイギリスならではのタフでタイトでいながらもソウルの影響をうまく取り入れた洗練されたバック・トラックを作りあげていたこと。12インチ・シングルのロング・ヴァージョンの特徴を生かした後半ダブに繋がるショウケース・スタイルやDJをフィーチャーしたヤード・スタイルの面白さ。B面に単なるダブ・ヴァージョンを入れるのではなく、ヴォーカルの代わりにサックスやピアノをメインに据えたラヴァーズ・インストとでも呼びたくなるようなヴァージョンを収録したシングルも多いこと。親しみやすく充分に練られたカヴァー曲が多いなどがあります。なによりメロディや音の粒の麗しさが魅力では、あるのですが…。

 ダブがその後のダンス・ミュージックに多大な影響を与えたのと同様に、ラヴァーズ・ロックの影響はソウルIIソウルやビーツ・インターナショナルなどに感じることができます。UKクラブ・ミュージックのルーツとして聴き直してみるのも面白いかもしれません。ただしこれらのシングルは主にメジャーとの配給契約がないローカル・レーベルから出ていたこと、ファッションやアリワなど一部を除き多くのレーベルが今では活動していないことなどにより、今日聴ける機会がほとんどない状態でしたが、今回まさに待望と言えるCDが出ることになりました。

 70年代後半から80年代初頭にかけ、デニス・ブラウンの兄、カストロ・ブラウンにより作られDEBレーベルから発表された珠玉のラヴァーズ・チューンを12インチのフルヴァージョンで収録したのがこの『Relaxin' With Lovers Vol.1 - DEB Lovers Rock Collections』。本作には上であげたラヴァーズの魅力の全てが詰まっています。特に本作のレーベル名にも使われたこのアルバムの主役ともいえる15 16 17というガールズ・グループの曲は、マジックとしか呼べない可憐で瑞々しい輝きを今でも放っています。同じくガールズ・グループのブラック・ハーモニーや、お馴染みアルトン・エリス、カールトン&ザ・シューズの傑作。それらのダブ・ヴァージョンやラヴァーズ・インストをパックした当アルバムは、麗しきラヴァーズの入り口としては最高に贅沢なものでしょう。