試験に出るような英単語はなかなか覚えられないのに、悪い言葉というのはすぐ覚えてしまうものである。ご多分にもれず私も、一連の**クラー言葉に代表されるジャマイカのバッドワード(カスワード)の類はすぐに覚えた。そして、おまわりさんに向かって**クラー言葉を使えばマジで逮捕されると同時に教えられた。

ジャマイカには国民に守られない法律というのがなぜか多く、というより法律を守らない国民が多いと表現すべきか、違法なのか合法なのかはっきりしない行為が多い。たとえば、公共の場所でのゴミのポイ捨てや立ちション、夜中の騒音、紙幣の落書き、動物の放し飼い、車のスピード違反…。その中で、「おまわりさんにバッドワードを使ってはいけない」という決まりだけはバッドボーイもしっかり守っている。

もうひとつのあやふやな行為に、司法の決定が下されて島中のトピックとなっている。ジャマイカを代表する二人のDJに、ステージで不当な発言をした罪で有罪の判決がおりたのである。 この問題は8月上旬にモンティゴベイで催されたレゲエ最大イベントのSunfest(サンフェス)から端を発している。

 ダンスホールナイトのステージで複数のDJが放ったリリックス(というより暴言)が原因で観客を巻きこむ騒動となり、会場でドミノ倒しが起こりショーは中断された。こういった騒動はこの国では、人の集まる所でよく起こる。ダンスやレゲエのショーばかりか、スポーツ観戦場やバスの中でも起こる。が、とにかく観光客の多いモベイのサンフェスで起こるべきではないのである。つまり、DJはサンフェスのような外国人客の多いインターナショナルなステージと、スティングのようなコアなステージ、又はローカルなダンスでマイクを握るような場所ではそれぞれ違うパフォーマンスを要求されるのである。

その後サンフェス主催者は騒動の種となったDJらを告発し、レゲエ業界はますますベレス・ハモンドやウオーリア・キング、VCなどのコンシャスものの人気が高まっている。 問題となったステージは、8月中旬にセントキャサリン教区のフォート・クラレンス・ビーチで行われた恒例のショー、チャンピオンズ・イン・アクションである。自治体公共行為違反の疑いで罪に問われたのはボウンティ・キラーとレディ・ソウの二人で、本来千ドル(3千円相当)の罰金程度ですむところを240時間の公共社会奉仕の刑罰に課せられた。

 240時間といえば10日間。10日間と聞けば短く聞こえるが、毎日2時間奉仕をしても120日間、1年の約3分の1かかる計算となる。ところで公共社会奉仕って実際には何をするの? ダンスホールDJ男組代表ボウンティ・キラーと女組代表レディ・ソウが標的にされたのには何か意味があるのか? 不公平ではないか?

この判定に当然納得のいかないDJたちだが、レディ・ソウは「コミュニティのために歌ったり料理をしたり、チルドレン・ホーム訪問なんてことはいつもしていること。レディ・ソウは変わらないわ」とクール。ボウンティは怒り心頭に達して「もう一生ジャマイカではショーに出ない」と宣言。今回は、男に二言はあるのかどうか。

アントニー・Bはステージ上で首相PJパターソン、法務大臣KDナイト、警視総監フランシス・フォーブスとジャマイカの大物を焼き討ちすると発言し同罪に問われたが、言動の自由が認められて無罪。政治家の腐敗の方が国の大問題だもんね。 同罪にはゴーストとシズラの名も挙がっている。

 バッドワードは実際、一部のジャマイカ人男性の間でまるで江戸っ子のてやんでえ言葉のように頻繁に使われることもあるが、実際には彼らもTPOを守っている。そして彼らの言葉には常にユーモアが含まれているのが鉄則だ。驚いたり感激したりしたときに、「Kiss Mi Neck」や「Rahted」「Rass」を使うくらいが中級向け。私達外人でも使える。カスワードを人に不快感を与えずに使うなんて上級の上級ができるワザ。たとえばピーター・トッシュのように。逮捕されるよ!