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![]() 狭い社会だから他人のことが気になる。下町や過疎村では皆貧乏でハングリ。外国にいる親戚からネームブランドの洋服を送ってもらった友人など近くにいようものならどうも気になる。島内では買えないその服を欲しくなる。ベグりまくったらついに一晩だけ貸してもらえることになり、隣町のダンスに着て行く。皆がその服を褒めるので、つい自分の物のような顔をしてしまい、「今度貸してやるよ」と安請け合いをしてしまう。そして、「また貸し」をしようとしたことが、次の日にはその服の持ち主である友人の耳になぜか入っている。恐るべし、ジャマイカの情報網。そして喧嘩に発展する。これぞアームスハウス。 このジャマイカ特有のコミュニケーション・システムは、常に身近にあり、人間関係をさらに濃くする。友人の妊娠を彼女が誰にも話す前に知ってしまったり、自転車を買って家路に着く前に、自転車を買ったことが家人に知れていた、なんてこともある。日本人のサウンドクルーがキングストンのどこに泊まっているかなんて話は、すぐ広まる。モベイのボトムロードを歩けば、半日でビーチ沿いの人間みなに覚えられてしまう。外人は特に目立つから、動向を見破られやすい。たとえば私のような主婦が若い男とダンスに行ったら、すぐ亭主にバレるんだろうなあ。 それがチャティチャティの噂話で済むうちはいいけれど、誤解が生まれ妬みとなって、本人が噂を耳にしたときには喧嘩に発展し、闘争心旺盛で仲間意識の強いゲットーではとうとうWARとなる。 ゲットーで用もないのに大の男が家の外に出て仲間とたまっている図をよく見かける。日本人旅行者の方から、「あれはなぜか」とよく質問を受ける。失業率が高いとか、色んな事情があるのだ。トタンの家の中は暑いし、狭いのに子だくさんで家族も多いからという住宅事情もある。同時に彼らには、情報を収集するという大切な役割と、敵と味方、両方の動向を把握していざというときには出陣する「歩兵」の役割をも担っているのだ。 田舎だからこそ起こる、人間関係の煩わしさとその可笑しさをネタにしたのがエレファントマンの「パサパサ」。エレファント発のこのニュースラングは、ミックスアップ&ブレンダーと同義語である。浮き沈みが激しく、狭い世界であるレゲエ界でのパサパサぶりはジャマイカの中でも尚更のこと。今も昔もレゲエ界は、DJやサウンドマンなどトラブルに巻き込まれやすいときたもんだ。 このパサパサをネタにしたチューンは昔からある。ボブ・マーリーの「Bad Card」ミアゴタイアーフィシミフェイス…イナラバダブスタイル…や「ベストフレンドがキミの敵になったりするんだよ」と人間関係の不条理を歌った「Who The Cap Fit」をすぐに思いつく。この二曲はマーリーの曲の中でもジャマイカ人に鼻歌で最も歌われ、ダンスでもよくかかるチューンだが、外国人にはわかりにくいリリックスだと思う。確かにうざったいことも多いが、濃い人間関係は都会にはないジャマイカの魅力でもある。 そんなジャマイカでサバイブするには口を固く、と自分を戒めてみる次第だ。 'Memba Dat! |