世界が認めるナンバー・ワン・ヒップホップDJ、ファンクマスター・フレックスのプレイがどれだけヒップホップの発展に貢献したか、その意義は計り知れない。そのファンクマスター・フレックスが今月、ついに来日。きっとあのThe Tunnelでの熱狂的なパーティーを再現してくれるはずだ。

 5月29日号の「ヴィレッジ・ヴォイス」誌の表紙を飾ったのは、なんと、ニューヨーク・ナンバー1のヒップホップDJ、ファンクマスター・フレックスだった。 ニューヨークの有力エンターテインメント情報誌の表紙になるほど、今やにフレックスの認知度が高まったということなのだろう。記事の内容は、ニューヨーク市が、度重なる「トンネル」での暴力事件に絶えかね、クラブ・オーナーに圧力をかけ、フレックスのパーティーを阻止するといったもの。 

 これに対して、フレックスは、「ヒップホップ音楽が暴力事件の原因みたいに取り上げられてるが、全くの中傷だ。これまでトンネルではピースフルなパーティーをずっと続けてきたのに、事件が起こった時だけ、新聞やテレビでデカデカと報道されてきたのには憤りを感じる」と不満をぶつけている。 もちろん、フレックスのせいでも何でもないのだが、これまでいくつかの事件で負傷者が出ているのは 事実だ。

 今年、フレックスの「トンネル」でのパーティーは9年目を迎えた。ニューヨークでは、最長を記録するヒップホップ・パーティーで、これまで何人もの死者を出した。死を覚悟してまで行きたくなるような刺激的なパーティーなのだ、というのは冗談だが、実際、日曜日の「トンネル」はどきどきするものがある。オープン後、まずは、前座DJジョニー・ウォカー・レッド、サイファ・サウンドなどが軽く流し、夜中12時を回ってから、今度はビッグ・キャップ、そして、真打ちのフレックスの登場となる。何度かこのパーティーを経験すると、あることに気がつく。そう、フレックスが回し始めると、だらけ気味だったダンスフロアがしゃきっとして、みんな思い切り踊り始めるのだ。クラブ内にある種の緊張感がみなぎるのだろう。他のDJとフレックスは明らかに違うのだ。彼のスクリームと化した喋りと激しいスクラッチが心地よく耳に響く。

 フレックスの特徴は、とにかく、今ホットといわれるレコードをかけること、さらに、ホットなアーティストの、まだ誰も持っていないプロモ盤、時々はテスト盤などをかけ、客を熱狂させるところだ。毎週日曜の「トンネル」で は、ショウケースが行われている。 現在有名なラッパーで、「トンネル」でパフォーマンスしたことのないアーティストは皆無といってもいいくらい、ラッパーの間でも浸透している。

 以前、ノリエガのソロ・アルバムのリリース・パーティーで喧嘩騒動を起こし、オーナーのピーター・ゲイシェンからクラブ出入り禁止を言い渡された、そのノリエガでさえ、「CNN」のリユニオン・パーティーは、どうしても「トンネル」でやりたいと切望し、ピーターに謝罪を申し入れ、やっと許可をとりつけたという。この話にはまだ続きがあって、パーティー当日、CNNのクィーンズの仲間が暴力沙汰を起こし、パーティーは中断されてしまったという。カポーン&ノリエガは「トンネル」から永久追放されてし まった。


 本名、アストン・テイラー。 ブロンクス在住の少年にとって、ヒップホップはストリートに溢れており、日常の一部だった。厳格な父親から「決してステレオを触るな」と釘をさされたことが、彼をより音楽に近づけたのかも知れない。同じブロンクス出身の、当時キスFMの人気DJチャック・チルアウトが、19歳だったフレックスにDJをするチャンスを与えてくれた。チャックのレコード持ちをしていたフレックスに、ある晩、チャックが番組に遅れるから、穴埋めをしろ、というのだ。これがキッカケでDJファンクマスター・フレックスが誕生した。

 現在は、月曜から金曜まで、夕方5時半からMTVの「Direct Efx」に出演、その後、夜はホット97でミックス・ショウを持ち、さらに、日曜の「トンネル」、その他、業界の大物のパーティーは、必ずといっていいほどフレックスがDJを務めている。最近では、レッドマンのアルバム・リリース・パーティーのDJをした。出席したのは、本人のレッドマンを始め、プロデューサーのロックワイルダー、DJクルー、DJスクラッチ、スティッキー・フィンガーズ、Rzaなど、ヒップホップ界の重要人物ばかり。

 なぜ、10年以上にも渡って、毎日DJができるのだろうか? フレックスの答えはいたってシンプル、「俺、DJが好きなんだ。音楽が好きだし、クラブで自分がかけたレコードの反応を見るのがたまらないね。特に新しいレコードを紹介するのがエキサイティングだよ。俺は、Play Records (ただレコードをかけるだけ)じゃなく、Break Records(レコードをヒットさせる)がポリシーなんだ」という。う〜ん、確かに好きじゃないとできないけど、それにしてもフレックスの場合は凄すぎる。さらに、アルバム『Mixtape Vol. 4』もリリース、売り上げもすでに70万枚を記録しているという。

 DJを始めた当初は、ハウスやレゲエもかけていたが、今は、ヒップホップに専念。「ニューヨーク・ナンバー・ワン・ヒップホップDJがハウスをかけてちゃシャレにならないだろ?」というフレックスのお言葉、ごもっとも。ますます快調なファンクマスター・フレックス、なんと7月に来日しプレイするという。生きてる間に一度は生で見ることをお薦めする。