四月二十九日、沖縄県宜野湾市野外劇場には日本を代表するレゲエ・アーティスト達が集結した。昨年各地で開催された『レゲエ祭』や日比谷野外音楽堂での『ソウル・レベル』に続く日本人アーティスト達による今年最初のビッグ・レゲエ・イヴェントが開催されたのだ。
最初にプレイしたのはドライ&ヘビー。日本が世界に誇るルーツ・ダブ・バンドは、いつもながらの重厚な演奏とリクル・マイと井上青の扇情的な2MC、そして内田のダブも冴えていた。ダンスホール系のお客さんの方が多かったため、そのあたりはハンデだったとは思うが、この日の30分ほどの演奏でも彼らの魅力は沖縄のファンにも届いたと思う。
続いて登場は、自身のバンドを引き連れて登場したアキ&ソルト・フィッシュ。経験豊かな彼らのライヴはさすがに堂に入ったモノ。自慢のツインDJに歌モノや新曲も交え、テンポの速遅取り混ぜてのステージは、貫禄といってもよいものだった。

Ackee & Saltfish
三つ目のバンドは、ホーム・グロウン。安定感ある演奏と様々なスタイルをこなすホーム・グロウンはこの日も◎。彼らをバックに最初に登場したのは、ケツメイシ。レゲエ・フレイヴァーを感じさせるところもあるが、持ち味はヒップ・ホップ寄りで、この日のショウの中では少々浮いていたのは仕方ないか。
続くファイヤー・ボールは、日ごろのマイク技を如何なく発揮した。慣れているクラブとは違って屋外でのステージだったから見せ方という点ではもう一考必要とは思ったが、経験に裏打ちされた五人の個性が良く出ていた。
 
 
Fire Ball
キーコ、リョウ・ザ・スカイウォーカー、プシン、ムーミンといったメジャー勢も元気だった。キーコは、ファイヤー・ボールのジュン4ショットやヨーヨーC、チョーゼン・リーらとのコンビネーションを挟みながらのとてもよいステージだったし、フル・アルバム間近のリョウ・ザ・スカイウォーカーもキレキレのDJスキルで新曲「ワイルドワイルド進化論」も披露しつつ会場を沸かせた。

Ryo The Skywalker
それに続いたプシンは、声の調子が悪かったものの、それでいながらも観客を引きつけるオーラを放っていたし、トリを務めたムーミンも、新しいアルバムからの曲が少なかったのは残念だったけれども、いつもながらの良いステージだった。しかし、一方で予定調和ではないライヴならではのノリも欲しいところではある。ムーミン級になると客の要求点も高いはずだから。とかいいながらも「ムーンライト・ダンスホール」でのライターはきっとこの日のお客さんの心に残るだろうな。

Pushim
システム勢も頑張った。地元のヴェテラン・クルー、キング・リュウキュウは、三木道三のダブやジャマイカのヒットを織り交ぜ、終盤では地元のDJ達も登場し、場を盛り上げた。シャギー「イット・ワズント・ミー」に始まり、シャギー「エンジェル」で閉めたマイティ・ジャム・ロックは、ヒットを中心にプレイ。普段レゲエを聴いていない人にも気配りをした選曲だったのだろう。そういう中にも個性を見せたのは立派。20分ほどの登場だったマイティ・クラウンも短い時間ながらもいつものダブを連発し、客をあおり、きちんと盛り上げ、余裕のプレイだった。
多少のばらつきもあったが、全体として良くオーガナイズされた8時間。出演アーティストのほとんどはナーキやランキン・タクシーといった第一世代より後の世代、つまり主にサウンド・システムならびにその周辺から出てきたアーティスト達。この日、リョウ・ザ・スカイウォーカーは言った。「もっとジャマイカのレゲエを聴こう」。この一言は、ここ数年の日本でのサウンド・システム・シーンの充実、日本語のレゲエの飛躍的な進化を示すと共に、ジャマイカのレゲエを偏重してきたレゲエ・リスナーのネクスト・ジェネレーション、つまり日本産のレゲエからレゲエに目覚めレゲエを聴いているという新しい層の存在を改めてクローズ・アップした。

Moomin
これは、ここ5年の日本のレゲエ・シーンにおける一大変化だ。しかし、システムの充実と共に、DJやシンガーも層が厚くなってきているが、ビジネス・ベースで考えるとまだまだ大きな壁があるのが現実。その壁を打ち壊すひとつのきっかけになりうるのがこの日のライヴであったと思う。日ごろ、レゲエを聴かない人たちにもきちんとレゲエの素晴らしさを伝えることが出来るような場が、沖縄で五千人の動員をもってしてできたことは、今後のひとつのヒントを示している。
地元企業の協賛や地元のレコード店を中心とした企画やプロモーションによって実現した今回のようなイヴェントは、残念ながら現状としてはアンダーグラウンドに甘んじているサウンド・システムとオーヴァーシーンとの接点として非常に重要な役割を果たしていくに違いない。そして、その重要な役割を果たせる才能や個性がきちんと育ち、充実してきていることをこの日のイヴェントは物語っていて、その場に居合わせた僕も幸せな気分になった。
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