MAD PROFESSOR

 今月はいよいよ麻怒教授の登場。ダブを単なる″手法″としてではなくポップ・アーティストもどっきりの″コンセプト″として捉えた新作『トリックス・イン・ザ・ミックス』へ至る多彩な活動とその一貫したメッセージ性にマーク本根が迫る!

Text by Makoto "Mark" Honne / Photo by Simon "Maverick" Buckland

 僕「その頃はまだ僕も20代で東京のあちこちにガールフレンズが点在しててでして。で、同時に週に3回位はレゲエDJもやってて。朝方にクラブが終わると僕はいつも、その日僕を受け入れてくれる女子の家に向かうんです。で、彼女を無理矢理おこしてシャワーを浴びて(笑)。実はそういう時によく僕はレコード・バッグからあなたのこのラヴァーズ・ロックを取り出してBGMにしてたんです。だから僕は今でもあなたの作った音を聞くと、当時彼女達の部屋の窓に射してた朝日を想い出して、軽ぼっきするんです」
教授「(笑)わかります。僕が作った音楽が具体的にどのように使われているのか聞くのはとても楽しいです。今は何処で聴いてるの?」
 1955年、南米のガイアナで生まれて、ロウ・ティーン時代にロンドンに移住してきたニール・フレイザー(芸名:マッド・プロフェッサー/以下″教授″と略)は、ガイアナ時代からラジオを通してスカ〜アーリィ・レゲエにハマったという。と同時に、UKレゲエ界ではちょっと先輩にあたるデニス・ボーヴェルがバルヴァドスで生まれ、ロンドンに移住した頃にはギンギンのジミヘン・キッズだったように、教授もUSソウル、とりわけフィリー・ソウルには相当造詣が深い。なるへそ、レゲエの門外漢をもぐっと濡らす音作り、ならびに、テンションを効果的に用いた多彩なコード・アレンジは、彼が100%のUKレゲエ文化と絶妙な距離を保ってこその賜物なのか。まずは(1)で軽ぼっきしようか、佐々木君。
 あと、僕が教授についてすごいなあ、と思うのはA&Rとしての才です。79年、ヨルバ語(!)の″コミュニケーション″から命名したアリワ・スタジオ&レーベルを設立した当初、彼が手掛けたのは、デボラ・グラスゴー、シスター・オードリー等、スタジオ近辺に暮らすセミプロだった人々。とのセッションを着実に成功させ、当時ストリートではすでに人気の確立してたフィーメル・トースター、ランキン・アンのアルバムでアリワ・ルーツ路線をエスタブリッシュさせ。たかと思うとスタイリスティックス〜マイティ・ダイアモンズの「カントリー・リビング」のイデオローグ性を見抜き、クロスオーバー・ヒット。させつつ、コフィでは「ブラック・プライド」「ドレッドロックに恋をして」でラヴァーズとルーツ・メンタリティの融合を試みたり。すごいですよね。DJ物ではマッカB、パト・バントンとか、ポップながらもコンシャス路線な人を迎えて″ルーツ・アリワ″のイメージも押し出したり。とかあとやっぱ格好いいのは89年『ミスティック・ウォリアーズ』を皮切りとするリー・ペリーとのコラボ。それとかU・ロイ、(マッシヴ・アタック参加以前の)ホレス・アンディとか、90年代に入ってからルーツ・グレイツをきっちりフックアップするあたり、僕的にはかなり点数高いです。ダンスホールDJ震度6が続く市場にむけての一矢なのでしょうか、ここ最近の教授は時代のなかであえてルーツ〜ダブに入れ込んでる気がします。
 で、そうした男気なアティチュードとクレイジーなダブ・サウンドにやられたのが、マッシヴ・アタック、ビースティ・ボーイズとかのロックな人達。99年には「フジロック」でも来日とかして、今だと「ロッキン・オン」読者とかの間ではボブ・マーリィより親近感あんじゃない?ぐらいに教授のダブは人気です。で、そんなダブマスターとしての教授を知るには(2)。このコンピのすごいところは、彼の人気シリーズ『ダブ・ミィ・クレイジー』→『ブラック・リベレーション・ダブ』をほぼ年代順に並べたことにより、8トラック:生オケ→16→24トラック:デジオケへとじわじわ変態する音作りが、じっくりつかめる点。で、言ってること矛盾してるかもですが、一枚聞いてフーッとなりつつ思うのは、教授って、過激なダブであっても娯楽と実験のバランスを、本当ハズさない人だなあ、ということ。聞き終った時は頭ビンビンなんだけど、楽しいんだよなあ。某クラブで出番待ちの教授を訪ねた時とか一人だけ赤目にならず静かにコニャック飲んでたし。毎日早起きとかして、磨きをかけた男のダブですよ、彼のは。あと、持ってるとは思うけど、スティール・パンと芳醇な生オケがからむ(3)は土生君にはマストね。

(1) "Lovers Rock Mad Professor Stylee"
Mad Professor
[OVERHEAT / OVE-0072]

(2) "Raw Dub"
Mad Professor
[OVERHEAT / OVE-0073]

(3) "A Caribbean Taste Of Technology"
Mad Professor
[Ariwa / ARILP025]

(4) "Mad Professor 2000"
Mad Professor
[OVERHEAT / OVE-0074]

(5) "Trix In The Mix"
Mad Professor
[OVERHEAT /OVE-0076]

 近年の教授は、デジオケ用にシェイプした従来のスタジオに加え、ブースを広くして生リズム対応にしたAre We Mad(アウィマ)スタジオも作って、生・デジ双方の美点をごちゃまぜにした、理想形と思われる環境/機材でプロデュースにのぞんでるが、(4)ではタイトルにあるように、基本線ルーツ・メンタルながらサウンド・スタイルは旬狙い。時にはジャングルにもトライするフレッシュな教授に親しめる。ペリー、U・ロイの発狂ルーツからちびっこはねはねドラムン・ベースまでコンパイルしてもそのゴリッとした一貫性に乱れがない辺りはTime For Dubな白水君と下田君のおしゃれコンビに見習って頂きたいところ。
 そも、ダブとはマルチ・テープ中のオケだけを使用する″手法″に美点があると思うが、思いついちゃったらそのマルチに更に音のっけちゃった掟破りはペリーの『スーパー・エイプ』がスタート地点。教授の新作(5)は、曲によっては美しすぎるソロ楽器群を惜しみなくアディショナル・プロダクションしまくった″概念″としてのダブの極美です。と、ここでドあたまの教授の発言。彼の22年に及ぶキャリアを通じて、僕は、常に確信犯的に事を起こす真面目人間として彼を捉えている。そんな教授は、確かに今、新作の中で何かにむかって怒っている。何にむけて? それは教えられない。税抜¥2500払って拝聴しろ。いつか俺達も、こんなに沢山のメッセージが含まれた無言の音楽〈ダブ〉に挑戦したいね、内田君。