サザン・ビーチの駐車場入り口から、Tバーのボードウォークまで続く海岸沿いの遊歩道を、原付きでノーヘル、2ケツで走る。よく晴れた真夏の日曜日の午後。行き交う男は大抵上半身はハダカ。女はビキニにショート・パンツ。みんな頬と鼻の頭がコゲてる。途中の広場で今週もまたムーダ・ワンがセットを出してる。軽く立ち寄り、ビールをもらって乾杯。「HAPPY & FREE」がかかる。真っ昼間から酔っぱらったヤツがよたよた起き上がって右手のビールを天にかざす。

 そのままTバーまで走る。江の島の向こう、鎌倉を越えれば森戸海岸はすぐだ。シャワーでも浴びて、少しはいいシャツに着替えて香水つけて、今夜はオアシスにでも行ってみようか。ムーミンあたりは来ていそうだ。テキーラを飲むのだけは避けておいて、帰りに江ノ島にでも寄ろう。この時期なら海の家のバーが朝までやってる。もしくは辻堂のおでんセンターでもいいし…。


 ムーミンの歌の根底に在り続けるもの。そりゃやっぱ「心地よさ」ということに尽きるだろう。前作より約2年の月日を経て届けられたオリジナル・サード・アルバムのタイトル『Get Here』を見ても分かる。取り敢えず「ここにいるぞ」と。それで、そういうトコがどういうトコかと。こういうトコだよと。アルバム全体を通じた世界観がそれを表している。

 ポップなラヴァーズ・ロック・ナンバー「Summer Shadow」でアルバムは幕を開ける。スウィートなプロダクションをやらせればバツグンのディーン・フレイザーのプロデュース作品。真夏というより正に今の時期にふさわしい、夏の始まりを感じさせる一曲。即ち「夏の住人」ムーミン・ワールドの始まりだ。

 2曲目は米米クラブの隠れた名曲を気持ち良くレゲエでカヴァーした「Time Stop」。森俊也作の、ポップだが、そこはかとなくレゲエ・マニアの感覚が見え隠れするトラックもかなりいい。

 そして進境著しいコーンヘッドをフィーチャーした話題の先行シングル曲「@ The Dancehall」へと突入。上代″Climax″学入魂のオケに、ムーミン、コーンヘッドが最高のコンビネーションをかます超イケイケ・ダンスホール・ナンバー。因みにこの曲のPVがかなりイイ出来。ムーミンとギャル・デムとスピーカーを詰め込んだダンスホール・トレイラー(正にトレイラー・ロード・ア・ギャル)を、ドライヴァーに扮したコーンヘッドが乗り回すといった内容。機会があったら是非チェックを。
 トントントンとテンポよくレゲエが続いて、この辺りから都会の夜的フレイヴァーの曲が続く。

 4曲目はシンコ(スチャダラパー)制作のサックスのサンプルが印象的なトラックに乗せた「Back In The Days」。湘南在住のフィメイル・ラッパー、マイラをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。男勝りな彼女の、女らしいリリックもグっと来る。

 続いてミディアム・メロウの傑作「君を想う夜」。説明しにくい切なく微妙な恋愛感情をうまく伝えるリリックと甘い歌声。この曲はシングル・リリース時にカップリングされていたブキーマンをフィーチャーした〈ブギーナイト・リミックス〉も非っ常に良いです。ボーナス・トラックで入れて欲しかったな。

 そんでもってこれは名曲でしょ。ストリングスのアレンジがめっちゃカッコ良く、メロも非っ常に良い「悲しみが消えるまで」。Bメロからサビに移行する時の展開はいいですねぇ。こうした「切なさ」を味わうのも歌の醍醐味ってヤツでしょ、やっぱ。「心地よさ」ということから決してハズれてません。カラオケであったら歌いたいかも。即ちイイ意味でポップ。クォリティが高いということです。

 切な系・夜フレイヴァーはこの位にして、ここからはムーミンならではのポジティヴな曲が続く。

 お次は、エレピを中心にシンプルな構成でまとまったバック・トラックが、ヴォーカルに牽引される形でグイグイグルーヴを出してくる「楽しむために」。ムーミンのこうしたポジティヴな曲の魅力は、常に仲間、友人=リスナーと同じ目線の高さでメッセージを送っているところだろう。「オレも一緒だよ」と。「同じ様に悩むし、頑張ってんだよ」と。だから「Get Here」なのだ。ムーミンの言う「ここ」には誰もが来れるのだ。そんな気分にさせるものがあると思う。

 8曲目。非売品のアナログ7インチにしか収録されていなかった「Goodness」のパパ・ユージ入りヴァージョン。ミックスCDには入ってましたね。女の子と海で遊ぶという夏の快楽の究極のカタチを歌にしてみましたみたいな。カ〜っ、チキショー、コノヤロー!みたいな。パパ・ユージのオールド・マナーのディージェーもいい感じです。

 続いてキース・ワシントンの「Kissing You」をワイヨリカのアズミを迎えて軽〜く気っ持ちよくカヴァー。プロデュースはロバート″ダブワイズ″ブラウニー。近づくエンディングを迎える前兆って感じですな。極甘です。歌詞、エロイです。あっ、さっき昼間海で遊んでた子とこうくるつもりなのかぁ。ク〜っ! コノヤロー!

 そしていよいよエンディング「安らげる場所」なワケですよ。「ここ」なワケですよ、来なよって言ってた場所は。アコースティック・ギター、ビンギ・ドラム、そしてフォーキーなオルガンが、火照った肌に吹き抜ける海風の様に心地いい。だがそれだけではない。聴く者に「勇気」であったり「決意」であったり「希望」であったりするものを、ゆっくり静かに喚起させる。真ン中でムーミンの声が導く。「ここ」には誰もが来れるんだ。来てもいいんだ。「ここ」に来て良かった。「ここ」に居てよかった。ムーミンの歌の根底に在り続けるもの「心地よさ」、それがここで完結する。そしてアウトロのインストルメンタルの余韻へと流れていき、再びループするかの様にフェイド・アウトしていく。ムーミンの夏はこのアルバムの中でループしているのだ。

「安らげる場所」に居れば夏は終わらない。なぜならそこはポジティヴな気持ちを持つその人のインナーワールドなのだから。そしてそこには誰もが辿り着ける。そんな風に言ってる様に思える。


 土曜日の深夜一時近く。もちろんダンスはやっと始まったばかり。バッチリ決めたダンサーの子たちも居れば、フツーな感じの子たちも居るし、今日は女の子が多い。それを横目に、やたらスピーカーの影になった暗がりばかりに居たがる野郎ドモ。それにしてもブリブリな顔し過ぎだっつうの。今夜もやっぱテキーラを飲むのだけは避けておこう。明日が台無しになる。明日は湯本の温泉に行きたいんだ。

 芝浦から茅ケ崎まで夜なら1時間かからないよな。さっき車の中で聴いてたインターFMの生出演もとっくに終わってるハズだから、そろそろムーミンも着く頃だろう。仕事モードも終わってるからゴキゲンなハズだ。今夜もイイ感じになりそうだ。