1999年12月号

GOOD FELLAS / Absolute (ポジティヴ)

マイカデリック、ダース・レイダー&DJオショウのアルバムへの参加で知られる驚異のライム爆弾=グッドフェローズのデビュー作は7曲入りカセット、という形態での登場。「聴覚年齢」から「R.P.G.」まで、瞬きすら許さないキロとゴーキの言葉の洪水はとどまるところを知らない。イレギュラーなフロウでここまでストレートな男気をほのめかせるラップ・アクトって…。全てオリジナル・トラックだがテープらしい生々しさがまたイイ。オショウ&イタオのミックス・テープ『Frameless Museum』も要チェック!

KRS ONE / The Sneak Attack (Victor)

4年ぶりとなるソロ4作目。“何が本当にヒップホップなのか?”というテーマでテンプル・オブ・ヒップホップのプロジェクトでも掲げてきた9つのエレメントの話を中心に、カルチュラルなヒップホップを説く姿が頼もしい。プロデュースはグランド・ダディIU&ジャジー・ジェフ、ケニー・パーカー、ドミンゴ、フレッドネック、そして本人と売りになるようなハデさは無いが、そんなものは必要ないと言いきれるアツくてフトいビートばかり。レゲエのフレイヴァーも相変わらずで、ティーチャー健在の大傑作!

BIG PUN / Endangered Species (Sony)

昨年2月に急逝したビッグ・パンのコラボ曲や未発表曲を集めた変則的コンピレーション。ソロ・デビュー曲となる「You Ain't A Killer」から、ジョーとの「Still Not A Player」といった定番曲から、テラー・スクワッド名義曲、ノリエガ、ビートナッツ、ラフ・ライダーズらのアルバムに収録されてたフィーチュアリング曲に、フリースタイル、そして本作からのカットとなる「How We Roll」('98版は彼の子供たちがジャネットの超有名曲の替歌をうたっている…)と文句ナシのボリュームと内容。改めてR.I.P。

CAPADONA / The Yin And The Yang(Epic)

晴れてウータン一軍入りを果たしたカパドナの2ndソロ。アルバムの作り、雰囲気的にはウータンの『The W』よりもむしろゴースト・フェイスの2ndの線で、特に彼の“Yang=陽”の部分がイイ形で出た快心作、と言える仕上り。制作にはトゥルーマスター、インスペクターデック、ゴールドフィンガーズといったWU族以外にもジャーメイン・デュプリや8オフも参加し、ゲストでもGFK、レイクオン、キラー・プリースト、シャイヒームら仲間内からDJ、ダ・ブラットも顔を見せている。いずれにせよ、主役の彼のライム・テクニシャンぶりが引き立つモノである事は間違いない。

MIKAH NINE / It's All Love(メリージョイ)

ウエストコースト・ヒップホップの歴史上外す事は不可能な重要グループ=フリースタイル・フェローシップの一人=マイカナインの初のソロ作。一時はリフージー・キャンプにも関わっていたこのヴェテラン・マイカーのリリカル・コンテンツの多彩さは言うまでもなく、セルフ・プロデュースのビーツと共に含蓄タップリの内容に。“意識のより良い選択”を示したそのコンセプトをバーサタイルなフロウイングで表現する姿に、彼の20年近いキャリアが凝縮されているかのようだ。深い。

V.A. / Rising Son(バッドニュース)

インターネット/MP3の世界では既に熱狂的なファンを増殖させているアンチコンの初の国内盤。レーベルの母体のある西海岸(ベイエリア)を中心にカナダ、シンシナティ、シカゴ他各地に拡がっている彼らクルーの実体はやはりこうしたコンピレーション/ショウケースのスタイルで一番伝わり易い。ソールを中心にバック65、ゼム等、メンバー達が"自身の世界観"を写し出したライム、トラックは、多くの人が知るとヒップホップとは距離を置いたもの、と伝えられるかもしれないが、これも明らかにヒップホップの今、なのだ。

ADD&DJ DOLBEE / Rocket Science ; Space Traveling(トライエイト)

A-トゥワイスこと故ラフラ(その生き様は彼の母が綴った書『ラフラ24歳の遺言』でも触れる事が出来る)が、DJドルビーとのユニット=アッドで吹き込んでいた3曲(+インタールード2曲)を元に、ドルビーのソロ・トラック5曲を加えたスプリットCD。サンフランシスコで出会ったこのコンビは『Catacombs』収録曲でも、そのドクトクの世界観を展開していたが、日米語バイリンガル・スタイルで“言霊”を感じさせてくれる。A-トゥワイスの人間らしいユーモアのあるラップとドルビーの精神世界を探求するようなサウンド・コンテンツのバランスは絶妙だった。R.I.P。

OZROSAURUS / Rollin' 045(フューチャー・ショック)

“ハマの大怪獣”ことオジロ初のフル・アルバム。作品を重ねる度にスケール感を増してゆく姿はこれ迄のシングル曲にも表れてはいるが、ハマのネイト・ドッグことメイをフィーチュアした「Tell Me」、名古屋のモサド、京都のマグマMCズとの「Young Gunz」ツイギー制作、featの「しかけ」他、全ての楽曲で味わえる。DJトモの泣きと振り幅の広いトラック群を始め、PMX、マミーD、イノヴェイダー、セロリとの相性の良さ、その音感のズバ抜けた、ライム・スキルに脱帽。早くも今年のベスト・アルバムの一枚に。

MURO feat NIPPS / Space Funk 2001 (トイズファクトリー)

M.U.R.OとN.I.P.P.Sが手を組んだ!? シーンを震撼させるこのコラボ・プロジェクトのテーマは“宇宙”。トイズから出るMURO版ではMURO作のスペイシーな高速トラックで2人のスキルフルなラップが炸裂。セルフ・ミックスも有のスペシャルな一枚に。対するユニバーサル=NIPPS版はDev-Large作のファンキー・トラックに「Galaxy Pimp」をめぐって飛葉飛火、
MURO、Dev-Largeのフロウが乗る、仕掛け。この壮大なストーリーは2枚合わせて初めて明らかになる…。ジャケ内のコミックも必見。

DEV LARGE feat. 椎名純平 / Music Maker (Sony)

椎名純平をフィーチュアした話題のコラボ楽曲「Music Maker」を含む、ソロ名義でのニュー・プロジェクトEP。ムーミンのプロデュース楽曲でも“歌物の聴かせ方”を心得たプロダクションで魅せてくれた彼だが、ここでの“音楽をクリエイトする者”をテーマとした聴かせ方は、もう素晴らしいの一言。また、トラックス系の「R.B.R.」(「休日」のラインも登場)、CQ、NIPPSとのイルマティック・ブッダMCズ名義での「Beat Down」も聴き逃せないトラック。「Music Evolution α」というタイトルの意味をよく考えよう。
餓鬼レンジャー / 火ノ粉ヲ散ラス昇龍(Victor)

チャートでも大健闘した「火ノ国Skill」の衝撃も冷めやらぬうちに、今度はメジャー第一弾となるシングルが…。タイトル曲「火ノ粉ヲ散ラス昇龍」でのアジア風味のバウンス・ビートでの「上昇、上昇」のサビは今の彼らの上昇志向そのもの。また「My Style Is The Best」ではスクラッチで構成されたフックにも負けない2MCの息使いに感嘆。そして「東雲(しののめ)」での哀愁をたたえた情景描写も良い。基本的に変わりないのに、確実にメジャー・スケールを感じさせる秀作。

STORM RYDERS / Wind-N-Cloud(CISCO International)

ブルックリン在住の日本人=サンダー・クラウドa.k.a.雷神とウインドサイファa.k.a.風神の2MCからなる2MC=ストーム・ライダーズのEP。彼らの存在はTwigy「今は昔feat.風雲Storm Ryders」のマサ=雷神のリミックスでも明らかになっていたが、その昇龍を連想させるオリエンタルなフロウは、この「Bust Ya Guts」、そして日米バイリンガル・スタイルでファイブ・ナチュラルと共に挑む「Rising Son」でも強烈に印象付けられる事に。彼らが突破口となり、ライジング・サン一族大暴れとなるか。乞うご期待。