「ブレスレン、アイドレン、ブラダ(ブラザー)、シスタ、ユース、ラスタ、ボス、ソルジャ…」ジャマイカ人は、様々な名前でお互いを呼び合い、リスペクトし合う。ソルジャという呼びかけには、ジャマイカで同じ時を共にする、同朋へのねぎらいが込められているようだ。「貴様と俺とは同期の桜」の世界か。海外で暮らすと顔が変わってくると言われるが、その昔は子羊ちゃんだったはずの私も、いつのまにか強く逞しくソルジャー(兵隊)のごとくジャマイカでサバイブしている。

キングストンの中心に住んでいると、日本に比べて、自分により近いところで何かしら事件が起きる。少なくとも、便利で平和な日本で生活するような具合にはいかない。停電や水不足にも動ぜず、何かあっても日本にコレクトコールも出来ず(ジャマイカ〜日本間は、コレクトコールのサービスがありませぬ)、週末に殺された人の名前を新聞で見て、知り合いがいないか確かめて。実際、若い男が不慮の事故で亡くなることが多く、戦場のように感じる。

しかし、我慢はしない。とにかく言いたいことは言う。ボックスランチひとつ買うにも、「えーっと、チキンは足よ。足と手羽しか食べないんだから。ライスは少なめに、野菜多めにね。グレービーはいらないけどペパー入れて。えっ、カントリーペパー(スコッチボネットのこと)ないの、チョー」。三百円の弁当ひとつにこの調子。銃の種類などもいつの間にか覚えてしまい、適当なトイレがなくても用を足せるようになってしまう。
A No Joke, Ya Sir. ソルジャーには隙がない。ジャマイカに長く暮らすうちに、危険への対処方法や自分を守る術を少しずつ学んでいく。ダンスなど人の集まる場所でスリにあってしまったあなた、そりゃあ修行が足りませぬ。ジャマイカに来たばかりの日本人旅行者は、イノセントな子羊ちゃんのようで隙ばかり。鴨がネギ背負ってやって来たの図。ジャマイカは危ないと言われるが、この「危ない」ということがどういうことなのかも、ソルジャーにならないと本当のところはわからないだろう。トラブルを避け、ジャマイカで楽しく過ごす為に、自分を守るセンスを養うことが大切だ。Hear Mi No.

〈考察その1〉お財布を人前でガバっとあける。これ、日本人がしがちなことで、ジャマイカでしてはいけないこと堂々ベスト1にランクされるほどしてはいけないこと。このくらいくどく書けばわかってもらえるかな。屋台でジュースを買うのに、お財布をガバっとあける必要はありませぬ。そんなことされたら私だって、後ろからそっとついて行って、肥満ぎみの財布をいただいちゃえという衝動にかられると思う。プラダのお財布をお持ちのあなたは、ハーフムーンホテルにお泊りください。ソルジャーは財布を持たない。そしてお金を分けて持つ。右ポケットには千ドル札など高額紙幣を、左ポケットには百ドル札以下コインなど、と決めておけば一々全部出す必要はなくなるだろう。見なくてもお金を出せるという、手品もどきの行為もできるというもんだ。USドルのキャッシュやクレジットカードが一杯詰まった財布の中身を見せておきながら、お店で「まけて」と頼んだってそりゃあなた、無理ってもんでしょ。

自分と自分のプロパティを守ること。お金など、大切なものをどう保管するかは重要な問題だ。本物のソルジャーと結婚した私の友人は、迷彩の制服を洗濯して干すとき、かなり気を使うそうだ。盗まれたら大変だもの。最新ナイキのスニーカーを洗って干している間は外出しないジャマイカ人もいる。洗濯物泥棒がいるからね。

 街を歩く時も神経を使う。道は穴ぼこだらけで、前ばかり見ているとフタの壊れたマンホールに落ちてしまう。隅の方はシ×ンベン臭いから少し車道に寄ると、旋風をあげて走るマッドなバスに轢かれそうになる。頭上の傾いた看板は今にも落ちてきそうだ。ハーフウエイツリーの交差点は、訓練の甲斐あってクールに渡れるようになったが、くるぞくるぞ、「ミスチン!」ほーら来た。こういうのを聞かないふりしてやり過ごす。話しかけたりからかったりしてくるジャマイカ人に、いちいち反応するのは子羊ちゃん。ソルジャーになると奴らをからかうなんて上級行為もこなせるぞ。

後ろから集団チャリ族が来たら、悪気はないけど構えてしまう。密かにポケットの中のウエポン(武器)を確認したりする。ウエポンは、ナイフだったり釘だったり催涙スプレーだったりナインだったり。夜は歩かないよ。街灯が少なくて暗いしね。ヤードマンだって夜道で知らない男とすれちがうときは、「やあまん」と声を掛け合うとか両手を下に向けて、戦闘の意思はないことを確認し合う。別段肩肘張って歩いているわけではない。こういった行為を自然にこなすのがソルジャーだ。

 とにかくジャマイカは90%以上がアフリカ系黒人であるから、外国人は目立つ存在だ。あなたは観光しているつもりかもしれないが、見られているのはあなたの方。この自覚が大切です。
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