2000年3月号
 


Bim Sherman

 Greetings friends,
今月は誠に残念ではあるが、悲報からお伝えする事にしよう。80年代初期ロンドンに身を落ち着かせてからというもの、イギリスやヨーロッパ各地で根強いファンを獲得していたルーツ・マン、Bim Shermanが悪性の癌に体を蝕まれ11月末にこの世を去った。ジャマイカで設立された彼自身のプロダクション・レーベル、Scorpioの存在で、UKにおいての彼のステータスは始めから相当なものであったが、On-U-SoundのAdrian Sherwoodの指揮のもと、Roots Radicsのメンバーらと取り掛かった作品をきっかけにShermanの人気は更に確立されていった。80年後半からバンドを引き連れてミニバスに乗り込み、イギリスの端から端までをツアーして廻っていた彼であるが(私自身、イギリスの最南端まで彼等を乗せた車を走らせるという機会が2回程あった)、90年代後半になると、多種多様なワールド・ミュージックの有名アーティスト達とリンクしたりと、その活躍の場を広げていった。そのうちイギリスを拠点に活動しているジャマイカ系移民の中でも最も大胆なアーティストとして認識されるようになり、主流音楽メディアからも注目を浴び、絶賛された。彼が残した作品の数々が全てを物語るように、UKシーンが失ったものは実に大きいのである。

先日亡くなったキーボード奏者、Victor Crossの生涯を祝おうと、家族や友人等が集って行われたショウ「And Finally...」は、故人の追憶にふさわしい、実に思い出深い行事であった。この愛すべきミュージシャンに最期の別れを告げるため、当日は彼と縁のあったUKレゲエ界の仲間達が大勢集まった。Crossファミリーによる心に響くゴスペルが披露された後、Victorに敬意を払うべくクラシック・チューンを演奏したTwinkle Brothersを皮切りにレゲエがスタート。同じ様に何度となくVictorとステージを共有したAswadも自分達の曲を程好くまとめてプレイ。そしてWolver-hamptonのDJ Daddy、Macka BがVictorに捧げるために書いた曲をアコースティック・ギターに乗せて歌うという、とても心を動かされるパフォーマンスを披露した。いくつもあったこの晩のハイライトのうちの一つであった。その後はRuff Cutt、All Welcome Crew、Sistaのメンバーによって特別に形成されたHouse Bandが登場、UKの錚々たる面々による安定した演奏を続けていった。その演奏をバックにTippa Irie、Lorna Gee、Victorの兄弟DerrickとHectorの2人をフィーチャーしたKleerview Harmonix、Levi Roots、Paulette Tajah、Lloyd Brown、Black Steel 等、他にも大勢のアーティスト達が皆、それぞれの思いを胸にステージに立った。そしてVictorの妻、Michelleがステージに上がり彼に捧げる歌を涙ながらに歌い出すと、会場には波を打ったような静けさが広がった。入場料を払って参加した観客もいる中、このコンサートは開演から全ての出演者がステージ上に集合するといったドラマチックなフィナーレに至るまで、実にピュアで誠実なヴァイブに包まれていた。もちろん他のどんなショウとも比較出来ないという事は言うまでもない。本当に心に残る、素敵な見送りであった。


Ruff Cut Crew (L to R : Fagan, Bongo Dashi, Bubblers, Tony, Fish)

ロンドンで1回のみ行われたMax Romeoのギグは、プロモーターの意に反して集客数が少なかったにも関わらず、とても素晴らしいショウであった。常に自分のベストを尽くすこの男であるからこそ、我々はそれ以下は受け付けないのであるが。今回のショウの見所は、何と言ってもオープニング・アクトである。まず最初に出て来たのは、Ras-Itesという16歳から19歳までの若いラスタ4人組。彼等はドラム、ベース、ギター、キーボードをこなし、更にはその殆どの楽曲を自ら作詞・作曲し、歌も歌えるのである。北ロンドン出身の音楽的才能に満ち溢れている彼等は数年後、間違い無くビッグになっている事確実。現在はJetstarが既にデビュー・アルバムの制作に取りかかっているとの事。興味がある人は『Reggae Hits 28』で彼等をチェック。このショウを盛り上げた他の目玉は、ジャマイカのWestmorelandからやって来た70 & Rsquosのヴォーカル・トリオ、The Italsで、彼等はこの日UKデビューを果たした。Lloyd Ricketts、Ronnie Daris、そしてKeith Porter等、3人のトレードマークである掛け合いのヴォーカルも健在で、昔懐かしいヒット・チューン連発の大サービス、詰め掛けたロンドンの観客を大いに喜ばせた。

この間、Kevin MetcalfeのSound Mastersスタジオにて思いがけず楽しい一日を過ごした。Little Tempoの新作CDとLP、及び Komada、Tico、Uchidaから成る新ユニット、KTUの初作品のマスタリングの為にAvexのクルーが来ていたのだ。ありとあらゆるスタッフも合わせるとかなりの人数で、一体その日スタジオ内で何人の日本人と顔を合わせたのかもわからなくなってしまう程であった。とにかく皆が居たらしい。かなり優れた出来映えの新作のプロモ盤をくれたRocking Timeのシンガー、KonnoにもBig Up !  日本発のレゲエの活躍ぶりには目を見張るものがあり、なんとも素晴らしい事である。
 来月は、私の「クリスマス・イン・カルフォルニア」の土産話をちょこっとお聞かせするとしよう。
 それではTake Care...
                             [訳/有賀由紀子]