ジャマイカン・ダンスホール新世代を代表するベイビー・シャムはナイス・ガイとしても知られる。満を持してなんと二枚組のデビュー・アルバム『Wow...the Story』をドロップしたばかりの彼を電話でキャッチした。アメリカのプロモーショナル・ツアー中で、「今、アリゾナの山の中にいる」というセッティング。

●ベイビー・シャムの名前の由来は?
ベイビー・シャム(以下B):仲の良い友達が俺が童顔だから付けたんだ。

●バイオによると、95年にスプラガ・ベンツがあなたをドノヴァン・ジャーメインに引き合わせたのがブレイクしたきっかけだとか?
B:その通りだよ。

●その時17才だったはずですが、それまで何をしていたの?
B:マイクを握るのも好きだったけれど、高校で勉強をがんばっていた。14才で親父を亡くしたものだから、母さんは俺がきちんと教育を受けて一人前になって欲しいと望んでいたんだ。俺は、それに応えたかった。

●当時、憧れていたDJはいますか?
B:シャバ・ランクスやイエローマンなんかのビッグ・DJはみんな憧れていたよ。

●声の雰囲気で最初はバウンティ・キラーと比べられることも多かったのでは?
B:そうだね。声というより、持っているヴァイブのせいだと思うけれど。

●ベイビー・シャムの魅力を自分で分析して下さい。
B:まず、リリック。それから、態度とパーソナリティー。誰にでもナイスだからね。

●デイヴ・ケリーとはどうやって知り合ったのでしょう?
B:高校生の時に知り合いを通じて知り合ったんだけれど、その時は高校を終わらせることを優先していたんだ。卒業して、いざ仕事をしようと思った時、自分が一番やりたい仕事がDJだと気付いてね。その後は知っての通りだ。

●デイヴ・ケリーのトラックの凄さは何だと思いますか?
B:ほかと全く違っていること。彼と一緒にやると、さらにクリエィティヴになって内容が深まっていく。彼は何でも受け入れるから、こちらもいつも通りじゃなくてもっと違うことをやってやろう、という気になる。

●デビュー・アルバムがダブル・アルバムで、おまけに殆ど一人のプロデューサーが手がけているのは思い切ってますよね。
B:デイヴは俺の兄貴みたいなもんなんだよ。毎日話しているんだ。ちょうどドクター・ドレーとエミネムみたいに、一緒に組んでこそ力を発揮する。チームとして世界に知られたいんだ。

●2枚目の "Another Level" でヒップホップっぽいトラックに挑戦していますね。とても自然に聞こえますが。
B:ヒップホップだろうがR&Bだろうが、ビートを正しく感じてその上でDJすれば難しいことじゃないんだ。決まったトラック向けに詞を書くのも、言葉を乗せるのも問題ない。ダンスホール・トラックでないとDJできないなんてことはない。DJをすること自体がバックグラウンドを現しているんだから。

●「Frossing Everyday」は2パック・シャクールの曲をほうふつとさせます。
B:特に彼の音楽を気に入って聴いているわけじゃないけれど、ラッパーもDJも社会を映し出す鏡の役割を果たしている点は同じだから、共通点はあるかもね。セクシーだったり暴力的だったりするミュージック・ヴィデオなんかで子供が音楽業界に対して間違えた考えを持つかも知れないけれど、俺達の言葉や実生活での振る舞いでそれを直していくことも可能なんだ。

●お気に入りのラッパーは?
B:ビギー・スモールズが一番好きだな。今はジェイZやDMX、ドクター・ドレーやエミネムも聴いているよ。

●フォクシー・ブラウンと共演していますね。
B:彼女はすごくいい友達なんだ。昨年、レゲエ・コンサートで知り合った。

●「Desperate Measures」や「Ma People」は社会的なメッセージを含んだ曲ですが、DJとして社会問題に言及するのはやはり大切なことでしょうか?
B:非常に大切なことだよ。人々は俺達が自分たちをリプリゼントしていると思っているから、彼らの声を代弁しないと。みんな自分が抱えている問題で精一杯だけど、時には全体を見てもっと大きな問題に耳を傾けることも必要だ。それを促すのが俺達なんだよ。

●女の子ネタも得意ですよね?
B:自分では得意だからそのネタをやろう、とは考えないんだけどね。自分が見たまま、聞いたままを口にするようにしている。自分のスタイルがどうとか、新しいかどうかとか気にしていない。

●ビーニ・マン、バウンティ・キラー、ブジュ・バントン以降のDJで共感していたりライバルだと思っている人はいますか?
B:いないよ。音楽を作っているだけで、競争ではないんだ。音楽というのは個人のものでもないし。フリスコ・キッドやチコ、ウェイン・ワンダーとかエイリアスの連中はファミリーだよ。

●曲によっては、通常の英語に近い発音をしてますね。
B:俺はいい教育を受けたからね。金持ちだったわけではないけど、母さんがいい学校に行かせることに熱心で、そこでは正しい英語を話さなくちゃいけなかったんだ。

●ファースト・アルバムでは何を一番伝えたかったのでしょう?
B:"The Beginning" は今までの道のり、出てきた所を知らせたかった。「Many Many」なんかのヒット曲を入れたのもそのためだ。"Another Level" はもう少し実験的で、君が言ったように分かりやすい英語も混ぜて使う工夫もした。昔からのファンを失望させることなく、島の外にいる新しいファンにも満足してもらえる内容にした。一枚目がパトワ・オンリーで、二枚目が英語とパトワのミックスなんだ。

●日本にもたくさんDJがいます。DJからDJへメッセージをお願いします。
B:まず、クリエイティヴであること。それから、ヴァイブを大切にして、一度に色んなことをしないようにすることが大事だ。気に入ったリディムがあったら、それをよく聴いて自分の中で消化してからモノにすること。毎月のように新しいトラックが出てくるけれど、それに全部飛びついていたら、自分が消耗してしまうからね。