他のDJをネタにして面白おかしくこき下ろす、なんていうのはダンスホールの必携作戦。イエローマン、シャバ、プロフェッサー・ナッツ、パパサンだってやったこと。最近では「The Truth」「The Business」両チューンがその傾向だが、なんといっても話題はセシールの「Chengez」、″チャイニー・ギャルリディム″。アイリーFMでオンエアされたその日に話題になった。個人的な趣味かもしれないが「ギャルのバディがどうのー」とか「バティマンブーン」「俺様が一番」なんてチューンはリリックスを聞き流してしまうが、この手の曲は耳をすまして聞きたくなる。

 まあ、ミーハー心をくすぐられるチューンといえる。セシールは24歳、ジェニファー・ロペスのカヴァー曲でレゲエ界に登場。元マンデビル市長の孫娘というからお嬢様。女のコが上品で可憐な声でDJバッシングを歌うというのは、レゲエ界の常識を打ち破るほどの大事件なのだ。理由はひとつ、女のコだから。

 レゲエ界は男社会、とこのページで以前書いたことがある。「アクエリアス」に行けばその傾向は一目でわかる。店内のポスターは中身で勝負といわんばかりのコワモテ揃い。ブースにへばり付いてレコードを買っているのは野郎ばかり。女の子セレクターもいないわけではないけれど、一般のジャマイカン・ギャルではセレクターになろうなんて思いつきもしない。男性に比べてジャマイカの女性シンガーや女性DJの少ないこと。

 マーシャのような大御所シンガーかカーリーン・デイヴィスのようにゴスペル転向組か、J・C・ロッジのようなアップタウン専門か…ダンスホールで第一線の女性DJといえばレディ・ソウ(だけ)。レゲエの中でも特にダンスホールは女性アーティストが居づらい所のようだ。

 ジャマイカというのは妙に「男」と「女」の役割の違いみたいなものが根強く残っているような気がする。ガードマンやタクシー運転手など本来男性の仕事に女性が進出していく傾向も見られるが、日本ほど顕著ではない。逆に男性美容師、保父さんなどは非常に少ない。やはり「マーママン」なんて言われてしまうのだろうか。
 そう書くとジャマイカでは男性が強いかと思われがちだが実際はその逆。お役所や会社では上に行けば行くほど女性が多い。雇用主は、同じ能力であれば男性より女性を採用する傾向にあるし、男性より女性の方が社会的信頼度が高い。

 「Chengez」には実に23人もの人物が登場する。Whick DJ Can Mi Program?(さーて、どのDJがあたしをモノにできるかしら)で始まるDJバッシングはなかなか辛辣だがそこはやはりジャメイカン、独特の愛とユーモアで笑わせる。

 「
ボウンティは硬すぎてイヤ(注1)、ケイプルトンにはボボの取り巻きが多すぎる。Mr.レックスはシャツを破って見せてくれるけど中身は "チキンの胸" だし、ジェネラル・Bは事故を起こしてフレックスできないし、マーシレスはちょっと…そう、恐いのよね(注2)。ビーニ・マンは好きなんだけど、身体は貧弱でしょ。かといってシャギーはフィットしすぎ。スプラガが "いい" とは思えないしー。ニンジャマン・フリー、でもナイフで刺されそうでやだ。ローリーはもっと背が高かったらなー。スカイジュース? ロレックスが腕に食い込んでるよ。ゼブラ? あたしの手さえ触らせないって。ジャッカ・ダイアモンドならフレックスしてもいいんだけど、結婚はダメ」とこの調子。ねっ、面白いでしょう。

(注1)Bounty Killer Too Stiff So He Can't Position. ボウンティ大将はこのチューンを聞いて憤慨しておられるけれど、これってむしろ誉め言葉。
(注2)Mi Afraid A D i One Merciless.マーシレスが恐いのは、彼がウディーニだからと言いたいのだろうか。

 他にもDJやセレクターの身体的特徴やゴシップ、過去の事件などをネタにして、「あたしと一緒にいたいなら、(上記の)欠点を直してちょうだい。考えてあげるわ」と歌いあげる。このチューンに対するボウンティ以外のDJ軍の反応は「あななっんー(=なんでもないよ)」という感じ。数年前にタニア・スティーブンスが「Yu No Ready Fi This Yet」と歌った後の男共の反応に比べて寛容である。初めての女のコによるDJこき下ろしチューン。ダンスホール歴史に残る大事件ではある。
Gwaan セシール!