先日初めてマクドナルドに入りフィッシュバーガーを注文したら、「ソースは要るか」と聞かれた。身とパンの間の白いソースのことで、こんな質問はジャマイカならでは、だと思う。ジャマイカ人はマヨネーズやタルタルソース、ホワイトソースなどの類は概して苦手なようだ。

 これらは欧米の調理法であってジャマイカに白い料理はない。それを裏付けるように白いものは「ブラウニング」と呼ばれるソースを使って調理し、わざわざ茶色にしてしまう。「ブラウニング」はカラメル状の茶色いソースで、食紅の役目をするだけで味はない。ここでは茶色が美味しい色なのだ。白いご飯も嫌われる。

 ジャマイカのお米はパサパサで味がないから塩やバターで味付けする。何も入れないで炊くと、「ダピライス(お化けのご飯)」と言って嫌がられる。

 好き嫌いはダメと言われて育ち、なんでも良く食べる私はジャマイカに来て変わった。肉を食べなくなってしまったのだ。まず、赤肉がまずい。今でこそ輸入のおいしい物やローカルの安い製品が出回っているものの、当時はソーセージやハムなどの加工品は高くて手が出なかった。食べないでいるうちに、そのうち本当に食べられなくなってしまったのだ。外食をすれば必ずチキン。下手すると毎日チキン。

 卵は食べなくて親ばかり。生卵なんて食べたら狂人扱い。さすがに暑いジャマイカでは、なま物は避けた方が無難だろうが。チキンはおいしいし、食べないと不便なので今では好んで食べるようにしている。

 魚は一部のベジタリアンを除いて皆に好かれる食べ物だ。漁業が発達していないので肉より魚の方が高い。こだわり人は海の鯛(スナッパー)しか食べないから「ダッパー」なんて言葉がはやった事がある。エビ、ロブスター、貝等の甲殻類やイカ、タコは食べない人が多い。カニに至っては海のアナンシー(蜘蛛)などと異名をとり、ウニも食べない。日本人は海の底から全てさらって食べちまう、とよく笑われる。

 ここでは特定のものを食べないことが粋、といった風潮がありDJのネタにもされる。Mi No Mek Mistake 'Cause Mi No Nyam Steak.(ミノメクミステイクカーズミノニャムステイク)「ステーキを食べないからミスはしないよ」ステーキとミステイクの韻を踏んだフレーズだが、ここでのステーキは豊かなものの象徴ではなく、ダサい食べ物として扱われている。ラスタファリアンが旧約聖書の教えを守り食べないもの、イコール良くない食べ物と一般の人々にも信じられているようだ。

 特定の食材を食べないだけではなく、特定の店や料理人からしか食べない、知らない人の作る料理は食べないという人が特に男性に多い。「ミノニャミニャミ」特に外人の作るものは食べない。

 ラスタマンの中には生理中の女性に料理をさせない人達もいる。食に対する警戒心は人一倍強く、カレーやアキは外で食べないとか、信頼のおけるホテルやパーティ以外ではドリンクは瓶から飲むとか、実は私も守っている。レッドストライプを一度地面にあけ、泡を確認してから飲むという行為を時々見かけるほどだ。食にこだわるヤードマンは自分で料理をする。「ミノニャミニャミ、でもミークック」ジャマイカ男の料理には定評あり。
 
 日曜日はライスアンドピースと決まっている。土曜はスープの日で金曜はお給料日だから外食の日。日曜日に白ご飯を炊いたら男に逃げられたという逸話があるほどサンデーディナーにはこだわる。

 ジャマイカは食生活が日本ほど便利にできていないから、カレーのルーもチャーハンの素もなくすべてスパイスから作る。だからおいしいのだが、料理人は大変だ。ライスアンドピースにはココナツミルクを入れる。殻を割って白いココナツの身を取りだし(ここまでの作業も力仕事)、すり器ですってから濾してミルク状にする。

 缶入りや冷凍のココナツもあるが、本物ココナツにこだわるようだ。ココナツミルクでふんわり炊きあげたライスアンドピースはめちゃウマ。手間がかかるから日曜日くらいしか作れない。レクサスのチューンじゃないけど、グリーンバナナやヤム芋を自分で調理する同志を私は尊敬する。硬いし手は痒くなるし汚れるし。ジャマイカ人はエラい!

 小さくて不揃いで土が付いていて虫が食っていても、ジャマイカの野菜や果物は絶品だ。日本ほど改良もしないようで、酸っぱいものは酸っぱいまま。どんな農業政策か経済政策か知らないが、年々輸入野菜が増えている。

 もやしや大根があるのは嬉しいが、赤ピーマン・アルファルファ等のお洒落な野菜と一緒にジャマイカ名産であるジンジャーまで輸入物が入っている。輸入野菜がいいのは見た目だけで、ジャマイカ産のように中身が詰まっていない。ジャマイカのにんじんは甘くて主張のある味がして、ジュースもよくとれる。

 こだわる人も多いがその一方で合成着色料のドリンクが売れたり、脂肪分と炭水化物中心の食生活をする人もいる。あれほどDJにファイアバンされながらもありとあらゆるファーストフード店がオープンし、どこも大人気だ。食生活にジャマイカ人の二面性を見るようで興味深い。

 ジャマイカには食べ物の流行や変化が日本ほどない。ジャマイカ人の食は本当に保守的で時には理解しがたいほどだが、ここにヤードマンのタフさを垣間見る。ミノニャミニャミ、ユーノー。