レゲエ・ブーム失速の中、本誌によるスローガン、「日本の年にしたい!」で幕が開いた90年代後半。その想いが年を追うごとに華を開いていったのは、読者の方々はご存知だろう。もう誰にも止められない日本のダンスホール・レゲエ・シーン!


 まぁ音楽の楽しみ方なんて人それぞれなんで、レゲエに対してどの様な接し方をしてるか、またその歴史についてどれ程知識があるかでレゲエに対しての愛情の深さを測れる訳では無いが、例えばスポーツ観戦や映画鑑賞等においてもその場で自分の五感に入ってくる要素以外、つまり予備知識が多少なりとも頭の中にインプットされてると意外に違った側面から楽しめたりするのではないかと思う。

 だからこの誌面を手に取っている読者には、これから記す情報が必ずしもいま必要かどうかは分からない。「今、自分の目の前で起こってる事や耳に聞こえている事が重要で、それが楽しければいいんだよ!」という声が聞こえてきそうだけど、日本のダンスホール・シーンを楽しんでいこうと読者が能動的になった瞬間に絶対役立つ情報が盛り込まれているはずなので、出来ればこれを捨てないでとっておいて欲しい。

 他国の言語を使用した音楽ではなく(基本的に)我々の母国語=日本語を使用したこのジャパニーズ・レゲエは、現在まだまだ成長・進化過程だ。だが言葉と感情がリズムの隙間からダイレクトに響いて来るこの日本のダンスホールは今後、皆さんを只の傍観者から参加者へ、更に人生に影響を及ぼす存在になる可能性だって充分秘めている。

 敢えて断言してしまうが、日本のダンスホール・シーンは皆さんの好奇心と探求心をきっと十二分に満たしうるシーンなのだ。そんな魅力満点のシーンの歴史の一部を紹介していきたいと思う。

 さて僕の担当は、1996年から2000年。正に日本のダンスホール・シーンが世に向けて光を放つ準備期間として日本の音楽シーンの正にアンダーグラウンドで煮えたぎっていた時代から、現在の様に徐々に浮上してきたこの時期の様子を出来るだけわかり易く時代を追って説明しよう。

 まず、96年。この年は「Riddim」誌が″日本の年にしたい!″というスローガンを掲げ、表紙に沢山の日本人アーティストの写真(当時、一般的には殆ど無名な人ばかり)を表紙にする等、僕自身もいよいよくるぞ!という予感を感じた年だ。

 今でこそ日本人アーティスト(レゲエに限らず、クラブ・ミュージック全般に於いても)が様々な雑誌やメディアを賑わせることが当然の事の様になっているが、90年代前半はやはり輸入物の方が何かと持て囃される時代で、特に時代の先端のもの程「日本のはちょっとね」という風潮が強かっただけに「こっから登っていくぜ」とアンダーグラウンドで志を高く持っている者はやはり、まだ日の目を見る事は少なかった(この頃からそんな状況に屈せずに自分の目標やシーンの拡大に目を向けていた者が現在のシーンの中心を担っているのだ)。

 しかしそんな夜明けの光が少しだけ見え始めた年であったと思う。しかし当時は現場レベルでは数多く存在したアーティストの才能を広く世に伝える手段や方法はまだ確立されておらず、日本のレゲエに興味を抱いたとしても、そのCDやレコードは売っているのか?という次元だったと思う。

 そんな今から考えると砂をかむ様な時代にもめげず登場したのがJap Jamレーベルを始めとするの日本人アーティスト(Papa Ugee, Papa Bon, Nanja Man等)をリリースするレーベルの数々。

 前項でも触れている様に、90年代前半から精力的にレコードをリリースしていたV.I.P.レーベルも7"シングル(Moominの「Moonlight Dancehall」もココからリリースされ、翌年のメジャー・デビユーに繋がる)をリリースしていたし、Rankin Taxiが若手育成を目指し制作したコンピレーション盤『Large Up』が店頭に並び出したのもこの頃だった。

 そんな言わば採算性を度外視した地道な努力は、現場レベルでしか知られる事のなかったアーティストに門戸を拡げ、一部ながら一般の音楽ファンへ日本のダンスホール・シーンが知られ始めたのだ。丁度全国で多数自然発生していたサウンド・システム/クルーも、それらの音源やダブ・プレートを通じて援護射撃をするという相乗効果も生まれ始めていた。更に日本で本格的に活動を始めたAckee & Saltfishのアルバム『Nuh Tek Back』やJah Maticレーベルの数々の作品もこの時代の重要作品として忘れられない。

 そして、97年。前年の動きが更に本格化した年だ。Rockers World, Thunder Gate, Geininn, Modern Connectionなど様々なレーベルが登場。そしてRankin Taxiの前出の『Large Up』に続くコンピ『Bad Bad』もアーティストを東西に分け同時に二枚リリース(全曲7"シングル化された)と作品も続々登場。

 この辺りからトキワ・クルー(NG Head, Jumbo Maatch, Ryo The Skywalker, Pushim, Takafin等)やChozen Lee, Atooshy等の若手の作品も次々とリリースされる様になり、レゲエ・シーンの底力、奥深さを徐々に全音楽シーンにもアピールし始めた。

 そして全国各地でもサウンド・システムを中心にした様々な大規模なイベントも開催され始め、クラブ・シーンに於いてその独特なスタイルは異端児的な存在であったものの、再びレゲエの存在がクローズ・アップされ、サウンド・システム/クルーの存在も認識されはじめた。

 また三木道三の『Miki-FM』等のミックス・テープやHase-T等のクロスオーヴァー的な作品、そしてカエル・スタジオ等による国内でのダブ・プレート・カッティングの普及等により、レゲエの表現手法も幅が広がり、更にクローズ・アップされ始めたのだ。

 更に、98年になると前年の動きが更に拡大され大きな流れを作っていく。この年位から、様々なアーティストのシングル、アルバム、そしてテープがかなりの種類・量で流通し始めた。つまり、まず作品をリリースする、という段階から、より良い質と内容が勝負となる時代に突入したのだ。こうして各アーティストが群雄割拠の中で切磋琢磨し、シーンは成長段階を歩み始めた年だと思う。

 具体的にはMoomin『In My Life』、Ackee & Saltfish『Watch Nuttin'』、Papa-Bon『Sword Man』等のアーティスト単体によるアルバムや前出の『Bad Bad』の98年版、Thunder Gate制作による『Premium Magic』、女性アーティストだけのコンピ盤『いろいろないろ』等、多数の作品が生み出された。更にMighty CrownやMighty Jam Rock等を始めとした、(ミックス・)テープという身近なソフトを使っての作品も重要なファクターだった。

 又、アーティスト、サウンド・システム/クルー、レーベルが徐々にリンクを深める中、「Riddim」誌が15周年イベントとして渋谷ハーレムで開催した "Upward" やオーバーヒートによるバンド・ショウ "Ruff Rider" 、莫大な人気と勢力を誇っていた大阪トキワ・クルーを中心とした "Slang" やTokiwa Star、Mighty Crown、Taxi HiFiによる一大サウンド・クラッシュ「頂点」等のイベントも大成功を収め、いわゆる″日本のダンスホール・シーン″という独特なものが確実に見えてきた時期であった。

 そして千年期最後の年、99年。全国各地でグツグツ煮えたぎっていたマグマが少しずつ世間に向けて爆発を起こして来た年である。と言うか、ある意味日本のダンスホール・レゲエの才能がやっと正当に評価され始めた年である。Pushimのメジャー・デビューや他ジャンルからの接触、そして融合等の現象も数多く起こり、シーンは日本のオーヴァーグラウンドに浮上する。同時に日本の数多くの才能が外に向けて放たれ大きな結果を生みだした年でもあった。

 特にMighty CrownやJudgementの世界的サウンド・クラッシュでの優勝という出来事は、それを象徴するモノであった。彼らが次の時代を担う若者達にも大きな刺激と影響を与えたのは言うまでもない。

 また、人気サウンド、King Weapon CrewによるTop Starレーベルのスタートやジャマイカを拠点に活動しているRed SpiderのJuniorを加えたカエル・スタジオの作品やイベントの成功、解散したトキワ・クルーのメンバーもそれぞれ大きく才能を開花した。つまりメジャー化し一般的にはなったが、コアな部分も更に充実し、わき上がってきたムーヴメントを充分に迎えうる土壌がしっかり出来てきた事を実感出来た年だった。

 …てな感じでやってきた2000年。今年もPushimのファースト・アルバム『Say Greetings!』のヒットから始まって、Ryo The Skywalker「Sunny Day Walk」や三木道三「斬る!ジャパニーズ」を引っ提げてのメジャー進出など、数々のトピックが生み出され、正にイケイケの状態だが、ダンスホール・シーン以外にもLittle Tempo、Determinations、Dry & Heavyなど、レゲエを聴かない音楽ファンにも充分インパクトを放つアーティストや、他ジャンルのアーティストによるレゲエ・フレイヴァーの取り込みなど、確実に様々な方面にレゲエという音楽がインパクトを与え始めている事はもう周知の事実だろう。

 もともと、個人個人の才能や能力を振り絞って作られた音楽にジャンル分けをする事が必要なのかは解らないが、やはり、このレゲエという音楽から発生、生み出された数々の要素が大きく飛躍しようとしているのは事実だ。

 それらの生み出すモノが日本全体に、いやそれだけに留まらず世界に発信、影響を与えていく存在になる事を願って止まないし、それを僕は確信している。もちろん僕のこの確信は以前から変わらない事だけど、昨今のシーンの状況をずっと見てきてその思いを一層強くしている次第である。


「full of determination」
Ackee & Saltfish
[Alpha Enterprise / YHJ002]


「Large Up 」 V.A.
[Media Remoras / MRCA-10045]


「Jap Jam International」
V.A.
[Alpha Enterprise/ YJAP-1]


「Sound Terrorist」 V.A.
[Overheat / OVE-0060]


「Miki FM~1998
Megaヘルス」

三木道三
[Sony Distribution / A]


「Jah Matic One」
V.A
[Jah Matic / JMLP-1001]


「In My Life」
Moomin
[Neosite / ESCB 1891]


「Bad Choice」
V.A.
[Bandai Music / APCA-255]


「Bad Bad '98」
V.A.
[Bandai Music / APCA-231]


「Top Star」
V.A.
[Epters / TSC-0001]


押忍」
V.A.

[空手 / YKT4001]


「Sword Man」
Papa Bon

[Bandai Music / APCA-221]


「Rab-A-Dub'99」
V.A.

[Alpha Enterprise/ KSCD8001]


「Say Greetings!」
Pushim

[Neosite / ESCB 2093]


「音楽成就」
トキワ・オールスターズ
[ばくさん / BCN-001]