オレがかつて出会い、多少なりとも言葉を交わしたことのある海外のアーティストの中には、常人を遥かに超えた、壮絶なまでの特濃ヴァイブを常に放出してるヤツらがいた。レッドマン、メソッドマン、RZA、そしてワイクリフ・ジョン…。彼らの持つヴァイブが、オレ個人が共鳴しやすい周波数(?)だったせいもあるのかもしんないが、オレが彼らと共にした空間は、明らかに特別な″何か″に包まれてたように思う。
その中でも取り分け、本稿の主人公ワイクリフは、全ての立ち振るまいから声に至るまでが実に音楽家的で、ラッパー/ヒップホッパーというよりも、むしろ、遺伝子レヴェルで音楽好きなミュージシャンという感じを強烈に受けた。しかも、メチャ不良っぽくて、クソパワフル(コネチカットで行われたマイティ・クラウンとローディガンのクラッシュの際、ローディガンのための仕込みのダブを携えて登場、会場を爆発させた、という話は、オレのそんなワイクリフ観を更に強めた。だって、普通、あれだけメジャーなアーティストがそんな現場にゃ行かないよな。マイティにも、″オレはお前らのファンだ″と言って、リンクしてきたというし、やっぱ、ヤツはそういう現場やストリートの土臭い雰囲気が、そして音楽が大好きなんだよ。リスペクト!)。
さて、そんなワイクリフがセカンド・ソロ・アルバム『エクレフティック』について語ってくれたインタヴューが届いたんで、それをオレが再構成してお送りしよう。
●ニュー・アルバムのタイトル『エクレフティック』の意味は?
「みんな、オレに聞くんだよ。『君は自分のサウンドをどう説明するんだい?』って。オレの音楽は、ヒップホップであり、ストリートでありつつも、R&Bでもあり、レゲエでもあり、ラテンでもあったり、ロックでもあったりする。オレは自分でもよくわからないんだ。だから、オレはこう答えたのさ。『オレのサウンドはエクレフティックだ』ってね。エクレフティックっていうのは、エクレクティック(=折衷的)とオレの名前をくっつけた造語さ。自分の好きな音楽を自由に融合させる。それがオレのサウンドなんだ」
●サブ・タイトルに″トゥー・サイズ・トゥ・ア・ブック″とあるのは?
「人間には誰にもふたつの面がある。君はもしかすると、『ストリッパーなんて嫌いだわ。なんでワイクリフはストリッパーの歌なんて歌ってるのかしら?
所詮売女じゃないの』って思ってるかもしれない(注・インタヴュアーは女性)。でも、君がもしダンナとベッドにいて、彼が『ストリップしてみろよ』って言ったとする。そしたら、君はこうして(″タララララ〜″と口ずさみながら服を脱ぐ真似を始める)ストリッパーの真似をするかもしれない(笑)。…どんな人間にも、ストーリーにも、ふたつの面があるんだ。そして、オレらはその善し悪しを裁いてはいけないのさ。物事にはひとつの面しかないと信じちまってる人々が多いからこそ、殺人やらドラッグやら様々な問題が起こってしまうんだ。だから、オレは人々にふたつの面の存在を教える。キッズたちにポジティヴな面とネガティヴな面の両方を示して、『ポジティヴな方を取ってごらん』って言ってやるんだ。何も隠したりせず、開いた態度でね。選ぶのは君たちなんだよ。…″トゥー・サイズ・トゥ・ア・ブック″は、そんな意味さ」
●『エクレフティック』は、プロモ・ツアーという設定になってますが。
「オレは50の州を旅して回ってる。ずっと移動し続けてるんだ。そして、オレは訪れる場所ごとに、そのエリアの主流な音楽にリンクしていく…。それを今回の設定に使ったのさ。たとえば、多くの人がカントリーについて語ってるけど、ケニー・ロジャース以上にカントリーを体現してる人間はいないだろ? だからコレを聴いてみな、って感じでね。そうやって、アルバムは進んでいくんだ」
●あなた自身にとって、ファースト・アルバムと『エクレフティック』の違いは?
「『エクレフティック』には、オレの音楽的な成長が顕われてると思う。それから、以前よりも歌う機会が増えてる。だからきっと、『ああ、ワイクリフは前より自信を身に付けたんだな』って感じてもらえるハズさ。ほんの少しだけど自信が付いたんだ。まあ、『歌なんか歌いやがって。気取ってやがる』と思うヤツもいるかもしれないけどね(笑)」
いやいや。メアリー・J・ブライジとのコラボレイト曲「911」での、胸に突き刺さって来るような彼の歌声を聴いてそんなコトを思うヤツはいねえよな。
『エクレフティック』。ミュージカル・モンスター、ワイクリフ・ジョンは、また素晴らしいアルバムを造り上げたのだ。
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