プシンの、実質的には初のソロ・ライヴ・ツアー。その東京でのライヴが行われた、渋谷クラブクアトロ(5月17日)を目撃してきた。開演ギリギリでドアを開けてまず、満員のフロアに驚いた。TOKIWA時代からのサポーターも多いのは理解できるが、パッと見、レゲエとは縁遠い感じの人達も結構いたり。で、その殆どが若い女性達で占められている所もまた、新鮮な驚きだった。いや、プシンがメジャー・フィールドで活動を始めてから、幾度となく取材させて貰ってきたし、作品のクオリティも申し分ない仕上りなのは十分承知している。第一、彼女のパワフルだけど優しくて暖かな歌声に、僕はやられっぱなしだった。とはいえ、プシンの歌が世間のどんな人達に届いてるのか?というと僕の貧困な想像力ではイマイチ見えてこないでいたのも事実だった。けれど、そんな思いはプシンが登場して間もなく披露された「Brand
New Day」が一気に吹き飛ばしてくれた。
ダンスホール・レゲエのシーンで凌ぎを削ってきた彼女が、メジャーの大海へと旅立つその記念すべきナンバーがフロアを瞬く間に一体のものにする…バックを務める″プシン・バンド″=Green
Ting Soundの演奏も、その印象を更に強くしてくれた。Home GrownのベーシストTanco、リトル・テンポ・ポッセからはキーボーディストのHakaseとドラマーの大石幸司が参加。更にキーボードの渡辺貴浩、ギターにNodatin、コーラスに多くのセッションに引っぱりだこのAsatoとMeg、ターンテーブルにDJ
HAZIMEを加えた計8名によるシュアでタイトなプレイは、「果実の月」の様な歌謡曲+ダブといったアクの強いナンバーから、ヒップホップ・ビートの「It's
too late」のカヴァーまで実に柔軟に対応していく。しかし、それがただ器用なだけなものに陥らず、幅広い音楽性の全てが〈プシンの音楽〉に帰結しているのは、それらがレゲエのファウンデーションをもとに組み立てられてきたものだから、か。それはそのままプシン自身が持つ、レゲエとのスタンス、もっと言えば彼女自身の音楽観とシンクロしているのはいうまでもない。バンド・サウンドに確かな手応えがあるからこそ、彼女はライヴ中に″私のバンド″とにこやかな笑顔で彼らを紹介したのだ。
 
この日最初のクライマックスは、ソウル・バラード「Strong Woman」。観客の多くの女性達が、プシンの歌声に併せ、まるで自分の気持ちを吐露する様にシング・アウトしていたのが印象的だった。そのままインスト・チューンを挟んで怒涛のダンス・パ ートに突入。
新曲まで披露したBoxer Kidとのコンビを皮切りに、朋友、Jumbo
Maatchとは『Say Greetings!』に収録された「Vibes Up」を再演。そして、彼女のキャリアの中でも代表曲として輝き続けるであろうガチンコのレゲエ・チューン「Greetings!」で又しても盛り上りはマックスへ到達。
そのテンションを維持したまま、Takafinとのコンビでレゲエ度がアップした「For
Your Song」で本編終了。

アンコールには飛び入りでMoominが登場。そしてオーラスは、アルバムの中でも人気の高い新境地といえるナンバー「波が…」で大団円。今更だが、思えばプシンはまだメジャー・デビューして1年程の新人だ。にも関わらず、これ程にも見せ場のあるステージングをこなせるだけでも凄いし、更に彼女はそこで自分を育んでくれたレゲエ/ダンスホールの流儀がどこまで通用するかにも挑戦している……冒頭の「Brand
New Day」からライヴ中ずっと感じ続けていたこと。それは、プシンの存在がアンダーグラウンドとオーヴァーグラウンド、レゲエと日本のポップス・シーンを繋ぐきっかけになったという事実。彼女はこのクアトロの″現場″でも、それをまざまざと実証したのだ…なんて大袈裟か? いや、だけどそれ位の衝撃を受けた一夜だったのだ。
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