全世界待望! 実に3年ぶりとなるブジュ・バントンのアルバム『Unchained Spirit』が遂にリリースされる。しかもレーベルはパンク中心に作品をリリースしているエピタフ(何とトム・ウェイツの新譜もここ!)から。リリースまでの経緯から新作のテーマ、聴きどころまでをインタビューを交えて解き明かしていこう。

 '97年に発売された『イナ・ハイツ』以来、久々の、そして待望のニュー・アルバム『アンチェインド・スピリット』。米国パンク・レーベル、エピタフからのリリース(日本はエピック)という事もあり、そのサウンド等の内容が今までのアルバムとは大きくかけ離れたものになるのでは、と予想した人も多いかも知れない。

 しかし、今回のアルバムも全体的には今までのアルバムの流れに沿った内容。前作『イナ・ハイツ』や『ティル・シャイロ』の方向性をそのまま生かしたスケールの大きな作品集だと言えば、ファンには察しがつくだろう。全体のトータリティと言う面では、今までの中で最高(一定のトーンとムードに貫かれていて、通して聞いてもギクシャクしていないとい言う意味で、前2作を上回っている)。簡潔になったと言うか、どんな聞き手を対象にしているのかが良く解るのだ。ブジュ自身がより幅広い層へのアピールを考えてのものかどうかは知らないが、結果的には今までのアルバムよりも多くのファンをつかみそうな親しみ易いサウンドが多い。



 普段ジャマイカの音楽=ダンスホール等を聞いていない人にも抵抗なく受け入れられるであろう事は、一聴してみれば明白。そここそが、ブジュが他のDJとは一線を画す才能であり、人気の秘密だ。独特の声とDJスタイルに劣化した部分は全くなく、表現の幅は確実に広がり続けているのが実感出来る。ただ、それだけでは一般層へのアピールが充分かと言えばクエスチョンだ。つまりサウンド面でのアプローチが適切だからこそ、彼のDJがより活きてくる訳だ。当然、彼の指向性とマッチしているのだろうが、バリバリのダンスホール・チューン(コンピュータライズドの現在ジャマイカで主流なヤツ)を極力省いた今作の構成は、偶然のものでは無いはずだ。

 つまり本作は、今まで誰もがやりそうでやらなかった(やれなかった)ジャマイカ国外へのアピールの方向性を、ブジュは何の不自然さも感じさせずに示してみせたと言えるアルバムなのだ。
 では、今作に関する事柄等について語ったブジュのインタビューがあるので、そちらに進行しよう。


●まず、前から聞きたかったんだけど、子供の頃のアイドルは誰? またどんな曲が好きだったの?

ブジュ・バントン(以下B):沢山のアーティストから影響を受けたけど、やっぱりブロ・バントンは外せないね。あとメジャー・ウォーリアーズからも影響を受けたよ。それと子供の頃好きだった曲はコンラッド・クリスタルの「アイ・ガット・リーヴ・ナウ」かな。


●新作『アンチェインド・スピリット』は、誰もが期待した通り、またそれ以上の素晴らしいアルバムですが、この作品のコンセプトは?

B:″スピリチュアル・ハイ(魂の高み)″が今回のコンセプトさ。


●アルバム冒頭の「イントロ」はヘブライ語だそうだけど…。

B:ヘブライ語は凄く素晴らしい言語で、僕らにとって重要な言語なんだ。何故なら、ヘブライ語はアラビアから来た言葉であって、全ての始まりなんだ。更に言えば、 "I & I People" の為の言葉で、全てのアフリカンやエチオピアの人々の言葉なんだよ。


●スカタライツのドン・ドラモンドのトロンボーンをサンプリング(「スルウ・フェア」)した「ベタ・マスト・カム」や「マイティ・ドレッド」でスカにアプローチしている曲もあるけど、誰のアイディア?

B:「ベタ・マスト・カム」は勿論、ドン・ドラモンドのスカが原形だよ。「マイティ・ドレッド」は、自分で書いて自分でプロデュースしている。これは完璧にオリジナルなスタイルの曲で、どんな音楽の影響も受けていないんだ。でもやっぱりスカはマイ・ミュージックだね。前のアルバムに収録した「スモール・アックス」も自分でプロデュースしたスカ・チューンだったしね。だから「マイティ・ドレッド」も自分の中から湧いてきたアイディアを自然に実行しているだけさ。


●今作のレーベルは、パンク作品を中心にDIY(Do It Yourself)を貫き通すことで有名なインディペンデント・レーベルのエピタフだけど…。

B:自分のキャリアの中では、メジャーなレコード会社との契約はどれも短いものばかりだったんだ。ポリグラム、マーキュリー、アイランド…。いろいろやってきたけど、自分のクリエイティヴィティを満足させる為には、インディペンデント・レーベルでやった方が自分の性に合っていると思ったからなんだ。インディペンデントと言っても、エピタフみたいに世界中に流通していれば、結局は同じだからね。


●「ノー・モア・ミスティ・デイズ」でランシドとコンビネーションした経緯を教えて下さい。

B:二年前に元アイランド・レコードのクリス・ブラックウェルから紹介をされて、彼らをジャマイカに招待したんだ。それをきっかけにエピタフからの彼らのアルバム『ライフ・ウォント・ウェイト』に入ってるアルバム同名曲を共演したんだ。それから一ヶ月後にまた彼らがジャマイカにやってきて「もう一度やろうよ」って話になったんだ。それがこの曲さ。


●最後に日本のファンにメッセージを。

B:このアルバムを札幌、名古屋、大阪・道頓堀、広島、川崎、横浜、渋谷…全ての日本のファンへ。