ビートの錬金術師、DJスピナが先頃クラブ・プレイのため来日した。短いインタビュー時間にもかかわらず、真摯に、そして的確に答えてくれる彼の姿勢がとても印象的だった。
●レゲエ中心のフリーペーパー、『Riddim』のインタビューです。
DJスピナ(以下 S):クール! レゲエは大好きだよ。レゲエを聞いて育ったからレゲエ・ミュージックは僕のバックグラウンドにしっかりと根付いてるんだ。
●もしかしてジャマイカ系?
S:家族はみんな元々パナマ出身だけど、ジャマイカの血も流れてるよ。
●僕が一番最初にスピナの名前を知ったのは、Rude Ridym
Experimentの12インチだったんだけど。
S:その名前が今出るなんておかしいな、ハハハ。って言うのも一緒にそのレコードを作ったパートナーとは大学時代に同じDJクルーにいたんだ。そのクルーの中でレゲエをプレイしてたのが彼だったんだ。Rude
Ridym Experimentっていうのはもともとサウンドシステムの名前でね、僕はクルーの中でヒップホップとハウス、R&Bをプレイしてて彼はレゲエ担当って感じだったんだ。
●そうかレゲエは近いところにあったんだ。ダンスホールとかは?
S:ダンスホールも好きだよ。最近はダンスホールをプレイする機会が多いね。最高のパーティ・ミュージックだからね。あと昔の人、誰でもいいから言ってみて、全部知ってるよ。すべて通過してきてるからね。クラシックのコレクションにはけっこう自信あるんだ。
●話は変わるけど、名前の由来は?
S:なりゆきっていうか、元々違う名前だったんだけど、周りのみんながその名前は良くないってことになって、レコードをスピンするってところから勝手にスピナって呼び始めたんだ。今日からお前はスピナだって。それ以来ずっとそれに落ち着いてる。自分も気にいってるしね。昔の名前? DJダイナマイトだったんだ。
●やっぱりDJからスタートしたの?
S:そうだよ。3才か4才の頃からレコードをプレイしてた(笑)。確か写真があったはず。ちょっと待ってて(とミックス・テープのカヴァーを見せる。本誌"Records
& Tapes" 参照)。
●これ? スピナの子供の頃の写真なんだぁ。
S:ハハハ。
●自身のグループであるジグマスターズとレーベル、ビヨンド・リアルが注目され始めたのは、5年くらい前だと思うんだけど…。
S:ジグマスターズは90年にグループを結成して、4年間契約をとるためデモ作りに専念してたんだ。ビヨンド・リアルは元々プロダクション・カンパニーの名前だったんだけど、95年に「Beyond
Real」って曲を作って、96年にシングルとして発表したんだ。プロダクションとしてのビヨンド・リアルっていう名前は、94年にダス・エフェックスとデ・ラ・ソウルのリミックスを手掛けた時から使ってるんだけど、ジグマスターズの最初のオフィシャル・リリースであるビヨンド・リアルの12インチはすべての面で僕のやりたいことが体現された作品だった。
●フィンガマジックって呼ぶのかな? これはあなたのスタジオ?
S:そう僕のスタジオの名前だよ。フィンガマジックっていうのはいろんなものを一緒にするってことなんだけど、バラバラに存在する小さなピースを一つにまとめて何かを作るって意味があるんだ。最初のシングルを出した後くらいだったかな。ジグマスターズで入ってきたお金をスタジオに投資したんだ。まずミキサーとAダットを購入してそこから徐々に買い足していったんだけど、もっともっと充実させたいよ。多分いつになっても完璧に満足することなく常に欲しい物が出てくるんだろうけど、とりあえず今仕事をしていくのに充分な物は揃ってるかな。
●ロウカスから出たあなたのCDにオリジナル・ブレイクしか使っていないって、わざとクレジットに入れてるところに、こだわりを感じるんだよね。
S:ヒップホップ全体を見た時に、僕はやっぱりオールドスクールの視点に立ち返るんだ。DJ達は誰も持っていないブレイク・ビーツを捜し求めてビートを常に新鮮なものにしていこうとしてた。その辺にありふれてるものを使い回すんじゃなく、ちゃんと自分の課題をやるみたいな、自分の歴史を積み重ねていくってところがあったよね。最近ではものすごい数の(ビートやネタの)コンピレーションが出てて、誰もが簡単にトラック作りが出来るようになったけど、僕から言わせれば、それはただ怠慢なだけでなんの面白味もないんだ。元々そういうものではなかったんだからね。皆が誰にも出来ないものを求めて必死になって歩き回ってレコードを探して作品を作ってた。今は何でもお手軽になり過ぎてて、もっともっと努力すべきだと思う。
●自分にとってメジャーとアンダーグラウンドの違いってあるの?
S:メジャー・レーベルのアーチストは政治的要因が絡み合ったメジャー・レーベルの構造の一部になってしまう場合が多いよね。すでにヒットしたものの後追いでしかなく、すべてトレンドとして発信してしまう。歌詞も同じようなことしか言ってないし、トラックだってありふれたもので良しとされてしまう。その点アンダーグラウンドのアーティストは、常に実験的な試みを忘れずに新しいものを生みだそうっていう意識を強く持ち続けてるよね。アンダーグラウンドから生まれてくる音楽は、メジャーからの作品に比べたら露出度は少ないけど、より音楽的だと思うよ。ヒップホップに限って言えば、今メジャーから出してるアーティストで衝撃的だったのは、コモンの新しいアルバムとかルーツの作品だね。もっとアンダーグラウンドのマーケットに焦点をあててよりリスペクトできる音楽をどんどん表に出していかなきゃいけないよね。まぁ今の状況はこうだけど、もうじき何かがひっくり返るんじゃないかな。時間の問題だと思うよ。
●最後に今やりかけているプロジェクト、今後やってみたいことを教えてください。
S:今二つあって、一つはジグマスターズのアルバムが5月の終わりには完成するのと、もう一つはDJスピナのアルバムでロンドンのBBEっていうレーベルから出す予定。将来的なことは今何とも言えないよ、常に何かが起こりうる状態だからね。とりあえず今はさっき言った2作品に集中してタイムレスな息の長い作品に仕上げたいと思っている。
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