各メディアから大絶賛を浴びているプシンのファースト・アルバム『Say Greetings!』。このアルバムは、プシンがレゲエのアンダーグラウンド・フィールドで活動していた頃から昨年メジャー・デビューし、いくつかの作品を発表してきたその過程を垣間見れるような、ヴァラエティに富んだ内容に仕上がっているが、その中でも特に異彩を放つ楽曲が収録されている。

 「果実の月」、これまでプシンを熱心に聞いてきたリスナーにとっては、いい意味で期待を裏切られたような作品と言えるだろう。例えばレゲエの現場から歌い継がれているプシンの代表的作品である「Brand New Day」や「For Your Song」で聞けたようなポジティヴな世界観、親しみやすいメロディー・ラインといった作風とは一線を画しているのは、この「果実の月」を一聴すれば分かるはずだ。そこかしこに鏤められたヴィジュアルを想起させるような単語の数々を含んだ、あたかも短編映画を見ているような気分にさせられるリリックに、流れるようなメロディー。言い換えればプシンの新しい側面を見せてくれているような作品なのだ。

 そしてサウンド面でも新しい取り組みが為されているのも見過ごせない。プロデューサー、朝本浩文の存在である。UA、シュガー・ソウル等数多くの女性シンガーをプロデュースし、自らラム・ジャム・ワールドとして作品を発表しているが、この「果実の月」において、ひとつのジャンルに括ることのできない音像空間を作り出している。ジャジーな雰囲気を漂わせるトラックは、プシンのリリックと相まって、更に映像的な効果を上げていると言えるだろう。

 また今回のシングル・カットに際して、新たに朝本浩文自身によるリミックス・ヴァージョン〈Fat Rim Mix〉が制作された。こちらはレゲエっぽいベース・ラインにシンプルなビートが絡むアレンジに再構築されており、エンジニア、渡辺省二郎によるダブ・ミックスも収録されている。
 今回、この「果実の月」において初の共同作業だったプシンと朝本浩文のコラボレーション、思わず次の機会を期待してしまっている人々も少なくないはずだ。